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千夜の本棚 ネット小説創作&紹介

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2013.07.25
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カテゴリ:本棚  ギレイ
ギレイ 携帯用 目次へ

 部屋に入ればアーデスが儀礼の白衣を監察していた。
それを受け取る儀礼はありがとう、と言った。
「観察されてたじゃないか。」
シュリは苦笑する。管理局ロックされているという、Sランクの白衣だ。

「他の誰かが持つよりは安全。アーデスはもう中身知ってるから。アーデスの結界なら、誰かに覗かれる心配もないし。」
儀礼は笑う。
信頼されてるんだな、とシュリは思う。

 儀礼が白衣を着ようとして、シュリが止めた。
白衣を重そうに渡した、あのアーデスが、だ。
「それ、俺が着てみてもいいか?」
シュリが儀礼に聞く。儀礼は顔をしかめた。綺麗な顔がもったいない。

「着るのは別に構わないんだけど……。」
迷うように儀礼はシュリに白衣を渡す。
「重てっ!!」
受け取ったとたんにシュリが叫んだ。

「何だ、これ。いつもこんなもん着て動いてるのか?」
目を見開いて疑うようにシュリが言う。儀礼の白衣は鎧並みの重さがある。
「慣れればそんなに。段段重くなってったんだ。」
苦笑するように儀礼は言う。
袖に腕を通そうとして、シュリは手を止める。

「……入らない。」
困ったように言った。
「やっぱり。」
わかっていたように、悲しそうに儀礼が言った。

「ちょっと待ってね、ばらせばいけるから。」
儀礼は、白衣からホルダーを外す。
防弾チョッキのようなそれは、複数のホルダーパーツを繋げてできている。
それを、儀礼はひとつずつベルトを緩めてシュリに着させた。

「すげ、衝撃吸収するんだな、このポケットホルダー。まるで鎧だ。」
シュリが感心する。
「うん、色々試してたらそうなったんだ。」
「このたくさんあるポケットには何が入ってるんだ?」

 シュリの質問に、儀礼は目を合わせて口の端を上げる。
「監理局ランクがAになったら教えてあげるよ。」
意味深な響きで。

 シュリの瞳が揺れる。知りたい。
けれど、監理局のAランクには簡単にはなれない。
「なれるよ、シュリなら。」
儀礼はにっこりと微笑む。シュリの頬が照れたように赤くなった。
「獅子には無理だけどね。」
困ったように苦笑して、儀礼は答えた。

「『黒獅子』? なんで無理なんだ?」
「小学生の授業でつまずいてる奴だよ? 僕が頑張っても結局九九も覚えなかった。」
怒った、というよりは、ため息をついて儀礼は言った。

「なのに、カットワーカーの倒し方一瞬で読むし。」
睨むような目付きで儀礼が続けた。

「カットワーカー? あの倒すのに切る回数が決まってる変則魔物。」
話には聞いたことがあるが、戦ったことはない、とシュリは言う。
そう、と儀礼はさらに続ける。
「『見ればわかる。切れば確信する』んだって」

 倒すのに、決まった回数切らなければならない敵がいる。
それを、獅子はそう表す。
攻撃するたびに核の位置が変わる軟体な魔物で、頭部と核の両方が揃ったところで破壊しなければ倒せない。
本来はその魔物の大きさと、回復の速さなどを合わせて計算する。
「底辺×高さ÷2」の様な特別な公式があるのだ。

 慣れれば一瞬で計算できるようになるが、獅子のは勘に近い。なのに、当たってるのだ。
「すごいな。俺もそんな風に言ってみてえ。」
尊敬を浮かべた瞳でシュリが言った。
「やめて、獅子は一人で十分だから。僕、もう計算式を魔獣に置き換えて説明するのやだから。」
シュリの肩に手を置き、宥めるように儀礼は言った。

 学生時代、獅子の宿題を何度も見てきた儀礼だ。
授業中、彼が理解するまで教えるのがいつの間にか儀礼の役目になっていた。
獅子は九九を覚えなかった。
しかし、七魔獣(七匹で群れを組む魔獣)が1匹いれば7匹いることは知っている。

「七魔獣のリーダーが12匹いる。僕と拓と獅子。この森で獅子が倒すのは何匹だ?」
儀礼が出したこの質問で、獅子が出す答えは63匹。
計算式にするとこうなる。

『7×(12-1-2)=63』

 儀礼が群れ1つ、拓が群れ2つ倒す間に獅子は残りの群れを全て倒すと。
数もぴったり合ってる上に、計算も速い。
体が魔獣を倒すように動いてるので計算してるかは不明。
イメージの中で戦ってるのかもしれない。

「頼りになるのは事実なんだけな。」
悔しい、とでも言うように、儀礼は片頬を歪めた。
口許が上がり、笑っているようにも見える。

「『黒獅子』か。手合わせしてみたいな。」
ポツリとシュリが言った。
「……武器変えてからがいいな。魔剣とは言わないけど、もう少しいい武器。将来のこと考えるなら本気で大槌みたいな重たいやつ。シュリならすぐ扱えるようになる。武器の力の差がもったいなさすぎる。」
儀礼の真剣な言葉に、シュリは戸惑う。

 武器のことはシュリも考えていた。しかし、シュリの家は裕福ではない。
今の剣以上の武器など、高価すぎて買えない。
シュリの稼ぎはまだ少ない。
下の小さな子達にも十分な教育を考えるなら、貯金はまるで足りていないのだ。

「シュリ、遺跡に行ったらどうかな。少しランクの高い遺跡に。他のパーティに混ざって。Aランクになったなら、Aランク遺跡に行けるだろ。経験値も稼げるし、場合によっては宝も見つかる。」
言って儀礼は白衣から地図を何枚か取り出した。

「お勧めは、こことここ。こっちも行ってくれるパーティがあるならいい武器が眠ってるはず。」
儀礼は地図の何ヵ所かを指差す。どれもAランクの遺跡の一部。
「ギレイ様、それ、私のあげたマップの一部ですよね。」
アーデスが目を鋭くさせたまま口だけを笑わせる。
俗に、目が笑ってない、という、とても恐ろしい笑み。

「ヤバイ場所は隠してあるから。行きたい場所だけ地図に印してたの。地図は市販のだから……まずかった?」
儀礼は顔を青くしてアーデスを見る。
「いえ、何故そこに印を?」
真面目な顔でアーデスが地図を見る。

「上の階と下の階のマップの間に1m×2m、高さ1m足らずの隙間がある。」
言いながらその、赤色で丸く示した部分を儀礼は指差した。
「……嵌めましたね。」
アーデスが片方の頬を歪ませて、ひきつったような笑みを浮かべた。
「行くぞ、シュリ。10分で帰る。」
低く言い、アーデスは武器を持って外に出る。

「え? えっ?」
シュリが困ったように庭に出たアーデスと机にいる儀礼を見比べる。
「良かったね、シュリ。アーデスが一緒に行ってくれるって。」
儀礼はにこにこと手を振る。
「感謝を忘れないでね。」
にっこりと、笑みを深くして儀礼は言った。

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379話この話と同じ内容です。


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最終更新日  2013.08.05 17:39:09
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