南岳新道の標高2300メートルあたりに
人がゆったりと寝転べる大きな岩がある。
西を向けば視界の下には谷間が広がっており
沢の流れる音が静かに聴こえている。
昼までにはまだまだ時間があるので
樹林帯の中のこの岩には陽が届いていない。
飲みかけのペットボトルを枕にして空を仰ぐ。
首のやや上に当たるようにすると丁度良いのだ。
しばらく空想だか夢だかわからない時を過ごす。
沢の音、鳥の声、風が揺らす葉のざわめき、虫の羽音。
聴こえるはずのない呼び声に目を開ける。
陽の射した木々の上で虫の乱舞。
光のように天に舞い上がり
雪のように地に舞い落ちる。
まどろみの中で儚い夢を見る。