求めない 私:実は、この本は読んでいないんだよ。
ベストセラーになっていて、図書館で借りようと思ったら、もう400人近い予約殺到。
図書館も予想したのか、40冊くらい買っているがね。
詩集らしいが、この本の存在を知ったのは、「文藝春秋」新年号の毎号連載の「ローマ人の物語」の塩野七生氏のエッセイからだね。
塩野氏がこの本のことをふれているが、新聞広告だけでの印象によるエッセイだね。
A氏:俺も塩野氏のエッセイは毎月愛読しているよ。
俺は昨日のブログで、本屋に行くとこの本を読むと儲かるとか、きれいになるとか、結婚ができるとか、何かエゲツないタイトルの「求める本」が並んでいると言ったが、この「求めない」という本は逆の発想かね。
私:「捨てられるホワイトカラー」では、失業したホワイトカラーに対しては「就職産業」が存在する。
その力を借りて職を「求める」て求職先に気に入られるように努力する。
徹底的に自己責任で自己の向上を「求める」ことになる。
あるいは「人に好感を与える方法」というハウツー本がその「求め」に応じて出版される。
A氏:そういう時代に疑問を呈したのがこの「求めない」かね。
塩野氏はこの「求めない」の本の新聞広告はよくできているとして、引用している。
まぁ、広告だから、ここでもそのまま引用しよう。
「ほんの3分でも求めないでいてごらん。
不思議なことが起こるから。
求めない--- すると心が広くなる
求めない---すると恐怖感が消えていく
求めない---すると人との調和が起こる
求めない---すると待つことを知るようになる
迷った時、苦しくなった時、自分にささやいてみる。
『求めない』と。」
私:塩野氏は、文藝春秋のエッセイで、自分はへそ曲がりだと言いつつ、「求めない」を全部、「求める」に変えてみたわけだ。
それをまた、引用して列挙するよ。
「求める---すると心が広くなる
求める---すると恐怖感が消えていく
求める---すると人との調和が起こる
求める---すると待つことを知るようになる
迷った時、苦しくなった時、自分にささやいてみる。
『求める』と。」
A氏:アメリカ人は、だから、失業しても「求める」んだね。
塩野氏は、この広告を日本滞在のときに読んで、ローマに帰るときに、本を読もうと思い空港内の書店をさがしてもなく、結局読んでいない。
しかし、この広告はおそらくこの本の性格を的確に示したものだろうね。
私:以前、バブルの頃、「清貧の思想」という中野孝次氏の本が出たことがあったね。
俺は読んでないが、図書館の概容によると
「名利に使はれて、閑かなる暇なく、一生を苦しむことこそ、愚かなれ...。モノとカネにふりまわされ、明け暮れする人生は真に幸福なのか?
光悦、西行、兼好、良寛ら先人の生き方の中に、モノを『放下』し、風雅に心を遊ばせ、内面の価値を尊ぶ『清貧』の文化伝統を見出し、バブル謳歌の日本に猛省を促した話 題のベストセ
ラー」
とあるね。
十年位前のベストセラーだが、また、「求めない」で同じことの繰返しかね。
A氏:塩野氏は、しかし、「求めない」と「求める」の違いは、「求めない」は3分でもいいが、「求める」は3分ですまないということだといっているね。
私:しかし、俺は「求めない」も大変だと思うよ。
光悦、西行、兼好、良寛だって、皆、長寿だろう。
どうやって衣食住を「求めて」生きていたんだろうね。
当時の貧しい農民よりは豊かだったはずだがね。
それは「求めた」からではないかね。
「求めない」でなく、「求めるもの」が違うということなんじゃないの?
A氏:著者の加藤氏は1923年東京生まれだから、今年84歳かね。
早稲田大学英文科卒、カリフォルニア州クレアモント大学院留学。
信州大、横浜国大、青山学院女子短大に勤め、フォークナー、トウェインをはじめ、数多くの翻訳・著作を手掛ける。
現在は、信州・伊那谷に独居し、詩作、著作のほか墨彩画の制作をおこなうとある。
私:俺たちなどに比較すると「求めてきた」人生のようだね。
だから、今、その蓄積で悠々と好きなことをしていられるのではないかと思うよ。
塩野氏は、「求めない」と人の尊厳や貪欲を求めた歴史の否定になるとしているね。