「『幕引き』」作家・佐藤優氏、関西学院大学大学院教授・川崎英明氏、早大教授・中林美恵子氏の3氏に聞く・5日朝日新聞・「耕論」欄
私:公文書を大量「改ざん」し、国会で虚偽答弁を続けた財務省幹部が不起訴になり、4日に省内の処分が発表され、政権は「幕引き」をはかる考えだいうことで、3氏にこれについて意見を聞いている。 佐藤優氏は、「責任追及、終わらせるな」として、結果的に起訴できず、逆に問題が小さいという印象を社会に与えてしまったがことの善しあしの判断を検察に任せきりにしてしまうのは、我々の責任放棄だという認識に立たなければいけないという。 問題の真相究明のために、真実を語ってこなかった佐川宣寿・前財務省理財局長の証人喚問をするべきで、麻生財務相の1年分の閣僚給与返納程度で終わらせてはいけないという。 A氏:また、佐藤氏は、今、政策能力が低くてやる気のある政治家と、能力が高くて倫理観のない官僚とが結びついてしまっていて、民主党政権への交代、自民党の政権復帰によって、自民党、民主党、どちらかに軸足を置いていた官僚が排除され、いなくなったという。 残ったのは、自民党にも野党にもごまをすれる「超ごますり型」か、やりたいことがないために無理をしてこなかった「省エネ型」の2種類の官僚だけだという。 国家の劣化ぶりが著しく、改めるには、小中学校を含め教育から変えるしかないという。 人間としての価値や人生観を深く考え、なぜ官僚になるのかを問い続けられる優秀な人材を育てることで、この深い病理を変える特効薬はなく、地道な取り組みが必要だと、かなり悲観的な見方をしているね。 私:2人目の川崎英明氏は、今回の不起訴処分は権力者犯罪について、検察が必ずしも厳格な姿勢で臨むわけではないという疑念を生じさせる結果になり、「検察不信」を生む事態がまた繰り返されたという感じがするするとして、対策として「検審の権限、大幅強化を」を提言している。 今回のケースで、告発人が検察審査会(検審)に審査を申し立てたから、議論の舞台は「検審」に移る。 A氏:しかし、「検審」に求められる機能は、市民の目線で検察の事件処理過程をチェックすることだが、そのチェック機能はまだまだ不十分だという。 この中途半端さは戦後の司法制度改革で、GHQと日本政府の間の妥協の産物として、検審が生まれたことに、端を発していて、「検察の民主化」を進めるため、GHQが、市民から選ばれた陪審員が起訴を決める米国の大陪審のような組織の創設を求めたのに対し、日本側は激しく抵抗し、結局、「検審」に落ち着いたという経緯がある。 今回の不透明な事態を踏まえ、「検審」の調査権限を大幅に強化するべきだと川崎英明氏は主張する。 私:3人目の早大教授・中林美恵子氏は、米上院予算委員会補佐官を努めた経験から「国会の調査権、米参考に」として、米国との比較で、日本の問題点を明らかにしている。 今回の不起訴のように司法のチェックが利かないならば、国会が監視機能を果たさねばならないが、日本では国会の調査権がなかなか機能していないと指摘。 日本でなぜ国勢調査家が機能しないのか、米国と比較すると、原因の一つが、国会の予算策定に関わる力が弱いこと。 日本は予算案を政府がつくり、国会は議決を通じ、事実上それを追認するので、「財布を握る」日本の政府は米国に比べ、国会や野党を軽んじた対応になる。 米国では議会が予算の策定権限を握るので、省庁スタッフはお願いする側。 日本でも例えば、政府の予算案に対して国会が修正案を付ける余地を残せば、国会の本来の調査権限を活用できるようになるという。 A氏:また、米国との比較で、日本では国会議員の行動が所属政党の論理に拘束されることも問題。 米国では、連邦議会選挙の候補者は地元で党内の予備選を勝ち抜く必要があり、それを決めるのは有権者。 議員は党中央の指示より、地元の市民の意向を優先して動くので、こうして米国議会では党派に縛られず、大統領や政府への監視機能を果たす。 私:中林美恵子氏は、日本でも予備選を導入すれば、国会議員が党の論理に巻かれずに行動するように変わるかもしれないという。 国会の調査権限を強め、議員個人も党だけに依存しないとなれば、立法府が本来の監視機能を発揮でき、官僚が官邸だけを「忖度」して国民を欺く事態を抑止できるのではないかという。 A氏:3氏とも今のやり方の問題点と対策を具体的にのべているが、政権は「責任をもって再発要望をする」というだけで、具体策がないね。 私:それは、今回の不祥事発生の原因が明らかでないからだね。 原因が明らかなら、対策はその原因を潰すことになるだけだからね。 それから、ある元自民党幹部が指摘していたが、「責任」という言葉の使い方が間違っているね。 確かに、不祥事を起したという事実の「責任」と再発防止を実行する「責任」とをゴッチャにしているね。