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投資の余白に。。。

投資の余白に。。。

August 8, 2013
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カテゴリ:映画
映画は人生を豊かにするための重要なツールのひとつだ。というか、人生を豊かにするためには映画をツールとして使いこなす必要がある。それができない人、しない人は薄っぺらな人間のまま死んでいく。

映画をこうしたツールとして使いこなしているかどうかは、つきあう人間をえらぶ際の重要なポイントになる。

その意味ではウォシャウスキー姉弟監督の2012年作品「クラウドアトラス」ほど「使える映画」はほかにない。

ヤフーの映画掲示板などを見ると、半数の人が絶賛している反面、3割くらいの人は全否定している。絶賛しているからといって油断はできないが、少なくともこの映画を全否定する人間はつきあう価値がない。

アメリカでは酷評されるなど、この映画の評価がわかれる理由は理解できる。たしかに3時間弱と長いし、6つの時代の6つの物語が行き来する映画作法(グランドホテル方式というらしい)に難解さを感じる人も多いだろう。グロなシーンも散見されるので生理的な不快感を感じる人がいてもおかしくない。

しかし、この映画を観て、監督の天才を直観・直感できないとしたら、その人間の感性はすでに死んでいる。好悪だけで判断し、監督の天才と原作のもつ深遠な哲学の片鱗さえ評価できないなら、その人間の知性も死んでいる。

感性と知性の滅んだ人間を何と呼ぼうか?

細部にはつっこみどころも多いが、それを言い立てるのはあら探しが好きなネガティブさの証明にすぎない。そう、映画を人生に役立てていこうというポジティブさがあるなら、この映画にはいくつもの発見と感動があり、全体としては陰惨で悲劇的な話ながら見終わったあと明るい気持ちになるだろう。前作「マトリックス」の場合と同じように、映画を観る前と観た後では、世界がちがって見えるし、自分の生そのものが変化したように感じるにちがいない。

この映画は輪廻転生をテーマにしているようでいて実はちがう。輪廻転生を宗教的な「真理」としてではなく「希望」として扱っている。つまり「生き方」「どう生きるか」を問いかけた映画であり、ウォシャウスキー監督はこの映画でヨーロッパ近代文明を超越する革命とそれへの武装決起をよびかけている、という見方が一面的なら、愛や友情や連帯や自由が時代を超えた普遍的な価値だと言っている。

実はこれは革命映画なのだ。

気づきにくいが、時代も場所も異なる6つの物語には共通のテーマが不正の告発、隷属状態からの解放、そのためには危険や死をもいとわない人間の崇高な精神への讃歌である。

俳優たちの反復キャスティングによる輪廻転生の暗示、異様に精緻でスピーディなアクション、ときおり炸裂する暴力シーン、一見関連のない物語の脈絡のない進行は、監督のあざとい目くらましであり、そのあざとさの中から真のテーマを浮かびあがらせる手腕が天才的なのだ。その手腕があまりに見事なので、この監督にこれ以上の作品ははたして可能だろうかと思わざるをえないほどだ。

この映画に完全な拒否反応を示す人が一定の割合でいるのは、彼らが人間性をとりもどす革命を拒否し隷属状態の継続をのぞむ人間、あるいはトム・ハンクス演じる医師のように弱肉強食思想にとりつかれた拝金主義者だからにほかならない。

6つの物語にすべてに共通するテーマが自由への解放、自立、連帯、革命、闘争、愛と友情、自由をかちとるための暴力による決起であり、資本主義と近代文明批判も織り込まれていることを、一つ一つの物語に即して解説しておこう。

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「波乱に満ちた物語」は奴隷貿易の公証人でありながら奴隷の悲惨さを目撃し、脱走奴隷に命を助けられたのをきっかけに奴隷商人の娘である妻と共に奴隷解放運動に身を投じる弁護士の物語である。

この妻を「伝説のクローン少女と革命」での革命に合流するクローン少女と同じ女優が演じているが、このあたりに監督の意図が明確に感じられる。

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「幻の名曲の誕生秘話」は、男娼であった過去を大作曲家に握られ、自分の作品を横領しようとする大作曲家を銃で撃ち、自分の名誉と作品を守って自殺する若い男の物語。

言うまでもないが、彼の銃撃と自殺は武装決起であり権威と権力からの解放である。なんと、彼がのこした唯一の作品は「クラウドアトラス六重奏」!なのだ。

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「巨大企業の陰謀」は、原発事故を誘因して大もうけをたくらむ石油ロビイストの悪事を命がけで暴こうとする女性ジャーナリストを描く。

原発企業の悪事を暴こうとしてカーマギー社とFBIに消された労働組合の活動家カレン・シルクウッドのことを思い出した人も多いだろうが、原作者や監督にはこの事件が念頭にあったと思われる。カレンが消されたのと同じ方法で「消され」そうになるからだ。

これは20世紀の物語であり、この話が中心だと考えると全体が理解しやすくなる。石油マフィアに消される科学者二人のうち一人は、男娼の過去を持つ作曲家の元恋人なのだ。二人の魂が来世で結ばれることを予感させる愛の物語は、残された手紙の文面の詩的で崇高な言葉によってとてつもない感動にまで高められる。

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「ある編集者の大脱走」は、交響曲でいえばスケルツォ楽章に相当する。担当している小説家が犯した殺人事件のせいで本が売れ大儲けした編集者はその小説家の弟から印税の支払いを求められ逃亡する。兄に助けを求めたが兄は彼を老人施設に監禁同様に収容させてしまう。だが施設内で仲間と語らって脱走に成功し自由を得る。おもしろい仕掛けも用意してあって胸がすく。イングランドに虐げられたスコットランド人の誇りに火をつけて追っ手を撃退するアジ演説をするのが、いちばんひ弱で足手まといになるかと見えた脱走老人なのだ。

この部分は全体との関係が薄いように思われるが、弟を施設に監禁させた兄は大金持ちで、この施設の大口出資者という設定になっている。障害者や高齢者まで食いものにする資本主義のあくどさが描かれる。

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「伝説のクローン少女と革命」は、地球温暖化により水没した22世紀の全体主義国家ネオソウルが舞台。遺伝子操作で作られたクローン人間(複製種)は人間(純粋種)に支配され、労働力として酷使されている。複製種ソンミ451は革命家チャンに救出され初めて外界に出る。

彼女は自由を得て旅立ったと思われた仲間が、実は殺されソープという彼女たちのリサイクル・タンパク源となっていたことを知り、ソウルの貧民街を拠点とするチャンの革命組織に合流していく。チャンの属する革命党は、組織の壊滅をおそれずこの国の実情を世界と宇宙に知らせ政府軍との激烈な戦闘を戦いぬいて滅んでいく。ソンミ451は伝説となり「崩壊後の地球」の人間たちの神としてたたえられるようになる。

この物語はもっともわかりやすい。人間が人間を搾取する資本主義のシステムが赤裸々に暴かれるし、マクドナルド的労働自体が揶揄されている。

この物語では全体主義国家を奴隷であるクローン人間と人間が手をたずさえて打倒しようとする「連帯」が描かれている。「波乱に満ちた物語」で夫と共に奴隷解放運動に立ち上がる妻と同じ女優がこのソンミ451を演じていることは前述したが、こうした自由と平等と解放を志向する魂は「輪廻転生」するという監督のメッセージをくみとることができる。

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「崩壊した地球での戦い」は24世紀、(たぶん)原発事故によって文明が滅びたあとの物語。原始時代のような生活をしている部族の男と、かろうじて文明を保持して残存している人間のコミュニティからやってきた女の交流が描かれる。どうもこの男の島にはかつて他の星に逃れた地球人コロニーとの交信施設(悪魔の山)があり、放射能に汚染された地球から逃げ出すことのできる最後の手がかりとなっているようなのだ。実際、生き残ったこの二人は他の星であらたなファミリーを作る。夜空には青く光る地球が見える。

この島の人々の神がソンミ451である。彼女の言葉は経典となっている。島にやってきた女は、「巨大企業の陰謀」での女性ジャーナリストと同じ女優が演じている。島の男は、彼女を「自分に訪れた奇跡」だと言うが、男は何度も彼女を窮地から救う。他人を救う者が救われるのだという美しい希望が描かれると同時に、ソンミといい、ジャーナリストといい、女性の転生がこの映画のひとつの主軸であることがわかる。そう、この映画ではフェミニズムもまた称揚されているのだ。

あと二つ、重要なポイントがある。島の男が「神のお告げ」を破る部分と、島に訪れた女が「議会との約束」を破る部分である。ここではさりげなく宗教と議会が否定されている。自分自身が正しいと判断したことを貫く「自立した精神」が称揚されているのだ。

この映画を観て、この程度のことも読解できない人間の知性と感性は滅んでいる。言いかえれば近代合理主義文明の価値観に汚染・洗脳されている。

自分に絶望するために、せいぜいこの映画を観に行くがいい。

フィル・グラスを思わせるミニマル・ミュージックを基調とした音楽(トム・ティクバ)もすばらしかった。この音楽と共に、生涯、いや輪廻転生した来世までも、忘れられない映画になった。





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最終更新日  August 12, 2013 03:22:40 PM
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