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カテゴリ:銀の月のものがたり
親愛なるシレーナへ。
この手紙は、君に届くかな…。 わからないけど、伝わることを祈って綴るよ。 肉体を失くした今、私の髪は何色なんだろう。銀色? それとも、彼の焦げ茶色? まあ、どちらでも変わらないけれど。 ようやく思い出したんだ。 あの時、焦げ茶の髪をしていたとき、私はいわゆる海賊に親しい友人がいて。 まともな商人なら報酬を払えば護衛もする、弱小商人の寄り合い船なら頼まれなくても護ってやる、でも悪徳で儲けてるなら容赦はしない、という義賊のような奴らだった。 友人の船長は、一見華奢なくらい細身な黒髪の若い男。 黙っていれば日に焼けた美少年といっても通りそうな顔で、ガハハと地中海の夏の太陽みたいに笑う。 敏捷で剣の使い手で、流行っていたボードゲームにやたらと強かった。 私は一年の半分ほどを彼に請われて、その海賊船に乗っていたんだ。 仕事は医者さ。 いつも大きな鞄を二つ持って、片方には宿がなくても二三日は大丈夫な装備、もう片方には薬草や何かの仕事用具と本。そして護身用の剣。 あの洞窟で出会ったとき、ずいぶん荷物が多いのね、って君に驚かれたっけね。 一年の残りの半分は、薬草や新しい医術を仕入れたり、無医村をまわっていたりした。 行かなきゃいけないと決まっている場所はなかったけれど、何年か続けていると待っていてくれる人が何人もいたからね。 君の海に行きたいと思ったとき、彼らの顔が頭にうかんだ。 私が行かなければ、必要な薬草が手に入らない彼らのことが。栽培ができるものは種を分けて植えて薬にするまでの方法を教えていたけれど、土地によってはどうしても合いにくいものもあるしね。 陸の仕事を終えなければ、海にはゆけない。 それを聞いて、もしかして私はどこかほっとしたのかもしれない。 どれほど強く君に惹かれていても、苦しんでいる彼らを見捨てて海に飛び込むことは… 私には、ひどく辛いことだった。 だから、まず彼らへの仕事をきっちりと終わらせること、それを目標に据えて私は戻ったんだ。陸へ。 もちろん友人の海賊船へも以前通りに乗っていたよ。 彼らにも医者は必要だったし、まだ若い船医に知っていることを教え伝えるのも私の役目だった。 きっぷのいい海賊たちと酒を飲んだり、甲板で仕合ったりするのも楽しかったよ。 時々波間を眺めては、君はどこにいるんだろうと思っていた。 寄港した後には必ず花を一輪買って海に投げていたんだけれど、君は気づいてくれたかな……。 皆は私の相手が人魚だとは知らないから、誰か大切な人が海で死んだのだと思っていたみたいだ。誰も何も聞かず、そっとしておいてくれたよ。 優しい仲間たちだった。 焦げ茶の髪の私が死んだのは、彼らの船が襲撃に遭った時だ。 逆恨みで攻撃されたのは、そうだね、銀髪の私の最期とよく似ている。転生した魂は、同じような最期を迎えることが多いのかな…。 以前にこちらが襲撃していた悪徳商人たちが、三隻くらい徒党を組んで襲ってきた。 よほど恐れられていたのだろうね。 四方八方から鉤をひっかけて甲板に登ってくるやつらを、皆でかたっぱしから倒していったっけ。 あのとき船長の剣技は澄み渡ってたな。見事だった。 勝敗がどうなったのか、私は知らない。 その前に囲まれてやられてしまったから。 血まみれで海に落ちるとき、まだ息があったなら君に迎えてもらえたのかな。 死んでしまっていると駄目なのだね…。奥津城に葬られるしかないのか。 せっかく海に居たのに、ごめん。 あのときも、もう少しだったのかもしれないね……。 一度目は海で、二度目は陸で。あと少し、というところで手が届かなかった。 だけど三度目に出会えたらきっと、一緒になれるんじゃないかと思ったんだ。 もう肉体は無いけれど……。 だから、今、こうして君に言葉を綴っている。 できるかぎり誠実に気持ちを辿って言葉に織ってゆくことだけが、唯一の確実な手段だから。 焦げ茶の髪の私が言っていたこと、覚えているよ。 「いつか、君の海に迎え入れてもらえたら。ワルツを教えてあげるよ、お姫様」 そういって微笑んだ。君は、私には尾鰭しかないのに、といって笑ったよね。 そして私は、海の中なんだからべつにかまわないと思うよ、と答えてキスをしたんだ。 覚えてるよ、シシィ。 覚えてる。 生きているとき、どうしても届かなかった薄雲が晴れて、たしかに私の記憶なんだと思える。 シシィ。 今なら、君に本当に逢いにゆける。 彼と私の約束を果たせるよ。 生前、私は彼のことを思い出せなかった。 だけど、私は私のままで君を想った。 まっさらで出会って、何も持っていなくても、やっぱり君に惹かれたんだ。 そこに理由なんかない。 生まれ変わりだからじゃない。だって私はそれをずっと理解できなかったし、むしろ彼に対して違和感を持ち続けていたのだから。 彼は… 正直なところ、当時の私にとって、他人、だった。 ずっとね。。 君には悪いと思っていたけど、どうしても、どうしてもわからなかったんだ。 でもわかっていたら、すぐに君に惹かれていただろうか? それは、本当に「私の」気持ちだっただろうか? ……きっと私は、今度はそのことに悩んだだろうと思う。生まれ変わりだから惹かれたのかと。 気持ちの理由は過去生とやらにあったのかと。 違うよ。 違う。 シシィ。 私は君に出逢った。 月が二度満ちる間たくさんの話をして、季節が三度めぐる間離れていた。 陸に生きながら、自分の仕事をしながら、そして君への想いを考えていた。 そこにあるのか、ないのか、それは私のものなのかを。 ずっと確かめていたんだ。 それはきっと、私にとって、とても必要な時間だった。 …私のものだったよ。 マントをあつらえ、リボンを選んだのは、間違いなくこの銀髪の私の、今ここの想いだった。 だから、シシィ。 いま、私は私のこころからまっすぐに君に言える。 Ti amo, Sirena. (愛してる、シレーナ Noi mantenere la promessa del mare. (海の約束を守るよ 私を海に迎えてくれるかい? 焦げ茶と銀の私達を。 Con amore il giorno di Natale, Ray. ------ ◆【銀の月のものがたり】 道案内 ◆【外伝 目次】 皆様、旧年中は大変お世話になりました。年明けのご挨拶を申し上げます。 あけおめ記事を書こうかと思ったのですが、今年は喪中の方も多くいらっしゃるでしょうし… ということで、いっそレイ(作中の男性です。正式にはたぶん、レイモンドかな)のらぶれたーで代わりにしてみました← けっこうな方から続編のリクエストをいただいてましたのでw 概要が見えたのがクリスマスだったので、そんな署名になってますけど ちょっと良い感じの内容だし年始でもいいかなーと。。笑 手紙形式なので、返事がわからないのがアレですが 多分そのうちシレーナさんのブログのほうに載せていただけると思います。 ちなみにダメとかヤダとか言われるかもしれませんがそれは知りませんww← (「Stripe Volume」http://blog.goo.ne.jp/hadaly2501) 今年もどうぞよろしくお願いいたします♪ 応援ぽちしてくださると幸せ♪→ ◆人気Blog Ranking◆ webコンテンツ・ファンタジー小説部門に登録してみました♪→ ★お年玉Special★ 1/1~1/8 はじまりの光&ドラゴンヒーリング お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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>……きっと私は、今度はそのことに悩んだだろうと思う。生まれ変わりだから惹かれたのかと。
>気持ちの理由は過去生とやらにあったのかと。 人として生を受け、例え意識の上で輪廻はある、と思っていても、実感の伴わないものを、そのまま信じるというのは難しいですね… まして、『過去に関わりがあった』と聞けば、揺れないわけがなく。 どうしようもなく惹かれる思いがそこにあった時、『過去の人生で関わりがあった』ことが理由で惹かれているのか、それとも、それさえも越えた先でその人に惹かれるのか。 なかなか、判別をつけにくいですよね。 過去に引きずられて愛しているのではない、と思いたい。 本当に愛している人なら、なおのこと。 でも、実際にはどうなんだろうか、と問えば、きっと私自身、確信はできないと思います。 レイさんのように、心の中で自分に反問し続けているんだろうな… でも、本当はそうし続けることで、目を反らしている部分もあるんだろうな、と最近思うようになりました。 過去世の記憶は、時に、マリオネットの操り糸のようだ、と思うこともあります。 実際に、心理的に弱い部分のある自分にとっては、そのようなものでもあったんじゃないかな、と。 でも、その糸が、ただ自分を縛り付けるだけのものではなく、ダイダロスの迷宮を抜け出したアリアドネの糸玉のように、人生という迷宮の道標となることもあるのかもしれないですね。 すみません、なんかぐだぐだしてしまいました(^_^;) (長いらしくエラーが出て悔しいので、分けて投稿します 汗) (2012年01月05日 18時34分58秒)
いや、何が言いたかったって、レイさんが、『ご自身』の気持ちを自分で見つけられて、本当によかったな、と思ったんです。
『過去に愛した人』だから愛したのではなく、今現在の自分自身で愛した、というその思いを見つけられてよかった、と。 きっと、シレーナさんも、嬉しかったんじゃないでしょうかね… シレーナさんにとっては、レイさんは『以前の恋人と、同じ魂を持つ別の人』ですから、シレーナさん自身にも、心のどこかに葛藤があったかもしれませんが… それは、とても他人が推し量れるものではないですけども… いま、この時の自分で『愛している』と思う人がいる、というのは、過去世どうこう関係なく、とても素敵なことですよね。 たとえ、肉体が消えてしまったとしても、続く思いは確かにある。 矛盾するようですが、でも、それもまた真実で… シレーナさんからのお返事、ひそかに私も楽しみにしてます~(笑) 長くてすみませ~ん← (2012年01月05日 18時35分37秒)
あけましておめでとうございます!今年も更新をまったりと楽しみにさせていただきます!
ご挨拶が抜けてしまいました^^; (2012年01月05日 19時25分18秒)
あけましておめでとうございます。
お正月、銀月第二部の読みかけ35話から一気に読みまして、 大変充実しておりました(*´∀`*) もうストックがないので(笑)少しずつ続きを楽しみにいたします~~ 私は過去世思い出したことがないので、 そういうのわかるって何かいいなあと単純に思ってしまうのですが… でも最近は必要があれば思い出すだろ~、 どちらにせよ今生きるのが一番大事なことにはちがいないよな~と思えるようになりました。 レイさんも一生懸命生きたあとだから、これでよかったのだと思います。 さつきさん、いつも情景が目に浮かぶような、ロマンチックでステキな文章をありがとうございます♪ 読んだら人を愛したくなる文章です! キュ=(*´∀`*)⇒ン (2012年01月05日 22時40分05秒)
あけましておめでとうございます。
新年早々、素敵なラブレターをありがとうございます。 ほっこり温かい気持ちになりました。 悲恋が悲恋でなくなるような大きな愛を感じました。 (2012年01月06日 00時30分24秒)
今年もよろしくお願いします♪
はぁ~♪ 思わず嘆息してしまう素敵なラブレターですね。 返事が気になります(笑) 初心者な(?)質問で申し訳ないのですが、過去生ってどうやって思い出すのですか? (2012年01月06日 00時41分03秒)
さつきのひかりさん
あけましておめでとうございます☆ いつもヒーリングや小説に助けられています。 ありがとうございます(ペコリ 銀月物語外伝 すごく嬉しいです(;; 時を越えたラブレター 涙して読んでしまいました シレーナさん よかったですね(*^^*!!! (2012年01月06日 10時19分57秒)
今年もよろしくお願いします。
…あのまま、終わってしまったらどうしようかと思っていました…(笑) 途切れたように見えて、還っていくときに想い出せて本当によかったなぁ…と思います。 過去に関わりはあったけれど、今の自分の気持ちが寄り添うことを望んでいる…ことはありますよ。 あると思いたい。(これも還るとき想い出すのかな…。) だっていつもまっさらで出逢うんですから。 お話、3で終わりではなくレイさんから伸ばした手をより感じることができてうれしかったです。 ありがとうございます。 (2012年01月06日 13時53分07秒)
新年に素敵ならぶれたー感激しました!
還った時に再会したら気持ちを伝えあえるよねー。。。と思っておりましたら。有難うございます♪ なるほど、過去は過去で今の自分を生きなきゃいけないですね。過去生の記憶を持つ皆さんを羨ましく思いますが、思い出したところで自分は自分なのですよね。 思い出して凄く嫌なヤツだったら困りますし(^^; 他の方も仰ってますように、必要なら思い出すでしょうし。 いつも、さつきのひかりさんの文章は深く、心に染み入ります。人に「こうなんだよ」って言われてもなかなか腑に落ちなかったりしますが、物語りだからでしょうか、自分で『こうなんだね』って気づかせて貰えるので、とても素直に受け止められますw ご挨拶が遅れました!改めまして、昨年も大変お世話になりまして有難うございました。今年もどうぞ宜しくお願い致します。 またの更新を楽しみにお待ちしております。 (2012年01月06日 14時36分16秒)
いつもありがとうございます。
皆さんがおっしゃっているように、心が温まりますね ありがとうございます。 想い って、すごく大切で、大事ですよね。 (2012年01月06日 17時18分56秒)
今年も宜しくお願いします。
前回の3でコメントさせて頂こうと思っていたのですが、諸事情で出来ず、こちらにあわせて感想書かせて頂きますね。 3を拝読した時に、運命の残酷さというか、予期せず残酷に訪れる終末というのを体感として私は知っているように思いました。私だけでなく、多分沢山の人々も。 だからこそ今回のように、それでも届けたい想いがあるということ、それが自身のものでなくともどうか届いて欲しいと一緒になって願わずにはいられない気持ちが昔からあるのかな、と。 私の中でこの、「どうか想いは届いて欲しい」という感情の先、が昔から無く、ずっと求めているのがその先である気がするので、何がしかのレスポンスを期待せずにはいられません。 いつも素敵な文章を有難うございます。 表面のさざなみでなく、根源を掬い上げて形にされたような心持がします。 (2012年01月10日 05時54分00秒)
さつきのひかりさん、続きをありがとうございました。
今回のお話に救われました。 続きを書いていただき感謝です。 深く愛する人よりも、まずは陸で待っている患者さん達を優先。本当に素敵な方ですね。私も惚れそうです。 この先、何らかの形でお二人が共に寄り添える時がある事を 願ってやみません。 (2012年01月10日 08時58分54秒) |