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カテゴリ:オーケストラ
最近、いろいろな指揮者の方と練習したり、その際にお話しする機会が結構あるのだが、いずれの方も共通しておっしゃるのは、練習回数を重ねるとある程度までは弾けてくるのだが、よりよい表現を目指すならやるべきことがいくつかあるのだということだ。
まず、実際に演奏する際には、流れの中で常に少しだけ先を読んで演奏することだ。確かに、その場所しか見ていないために、自分の中のリズム感が崩れてしまうと修正できない人が少なからずいるということは感じる。例えば、フレーズの中で前向きに少し速度が上がり加減になるところもあれば、どうしても時間をかけて表現すべき場所もあったりするが、それは自然なことで、フレーズを理解した上で、その単位で帳尻が合っていればまったく問題のないことである。しかし、一度早くなったものや遅くなったものを戻せなくなるために、そういった現象は起こっている。そういうこともあって、今度は逆説的だが「メトロノームどおり」という観念に縛られすぎないことも重要であるように思う。自然なおさまり方などはあってもいいわけで、そこは指揮者や他の奏者との共同作業になってくる。杓子定規にはいかない音楽の難しい側面だ。 そう考えると、演奏は自動車の運転をするのと似たようなところがある。運転していると、信号を過ぎる瞬間に見ても対応できないわけで、少し手前から変わらないかどうかを考え、判断して信号を通過していくことが必要だ。また、スピードとの兼ね合いで途中で黄色になったときに行くか行かないかについてはかなり柔軟に対応しているはずである。こういうことを実は日常生活で知らず知らずのうちに経験しているはずなのだが、弾くのに必死という演奏ではなかなか難しいのかもしれない。 そのためには、「気合いと根性の練習」だけではなく、やはり楽譜を事前に読み込んでおくことが大事だ。例えば、一つのフレーズの中にも和音との絡みで音の重要度には違いがある。前の音と次に弾きたい音との関係がどうなっているのか(クラシックの場合にはどうあるべきかと言った方がいいのかもしれないが)を理解して演奏しておきたいところだ。クラシックに限らず、多くの人にとって聴きやすい音楽は、必ずフレーズのおしまいは「チャン・チャン!(ソ・ド!)」という和音になっている(もちろん、裏をかいたりしてさらなる紆余曲折を求めることはあるのだが、それでも最後はそうなる)。つまり、そこが文章でいう「。」に相当する。まずその場所が「。」であることがわかって演奏することが大事で、その最後の音(つまり言葉)を「ね」と優しく終わるか、「だ!」と断定的に終わるかということを考えると、よりわかりやすい表現になるわけだ。 それを押さえた上で、作曲家がいかにあの手この手を使って紆余曲折をして曲をドラマチックに仕立てていこうとしているのかを味わうことができれば、これはますます面白くなってくる。これは2時間もののサスペンス・ドラマを見るような感覚かもしれない。筋は単純だが、2時間視聴者を飽きさせないために、犯人をしばらくわかりにくくする展開にしてみたり、温泉や電車が登場したり、主人公がピンチになったりと台本や演出などに工夫をこらしている、まさにそういったものを味わう感覚であるような気がする。サスペンス・ドラマも展開のしかたがわかってくると犯人を見つけるツボがわかってきて、それがさらにドラマを見る楽しみを増やしてくれる。それと同じなのではないかと思うのだ。 ただ、音楽の難しいところは、視覚に訴えることができないということだ(パフォーマンスという意味はここでは考えない)。音だけで何とか表現していかなければならないし、それをお客さんに感じさせなければならないのだ。どんなに難しい曲であっても、「何かわからないけど、聴いてて感動した!」とか「鳥肌が立った」と感じてもらわなければ、お客さんにとっては退屈な修行になってしまう。演奏会で「頑張っている姿を見れば喜んでくれる」という考え方もあるが、それだけで2時間聴くだけのモチベーションが保てるかというと、なかなか難しいかもしれないと思う。もっと悪い場合には「おやぢカラオケボックス」状態になってしまう(自分では思い入れたっぷりの歌唱でも聴く側は辛い)。こうなると極端だが、いずれにしても、ただの「発表会」ではもったいない。 ちょっとしたことを気をつけて、そこからきっちりと工夫を積み重ねていくことが、一皮むけるための方法なのではないかと思う。作曲家はかなり緻密に考えて書いているところが必ずある(もちろん、そうでないところもたまにあるのだが)ので、それを「面倒だ」とか「感情で乗り切ろう」とすぐに切り捨てないで、食わず嫌いをなくしていくことが大事なのではないかと思う。新しいことに挑戦して、うまくいったことを実感できれば、もっとやってみようという気持ちになる。そのいいサイクルを回すためのポイントをうまく見つけたいところだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Mar 15, 2009 10:58:34 PM
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