MY LIFE THIRD 132
「秀一君はお姉さんのことが好きなんですね」と、如月が言った。 くすぐったいような響き、刺すような顫動――。 如月はスペイン村をできるだけぐるりと回ってみたい、と言った。 <た く さ ん の ボ ー ト が 行 き か っ て い る み た い だ か ら> ドンキホーテとサンチョパンサ像・・。 秀一も別に、何かをしたいという気持ちもなかったので、いいよ、と言った。 、、、、、、 、、、、、、、、、、、 、、、、 、、、、、、、、 ファクシミリ・・自問自答が間に合わない、線香花火、英会話のテクスト――。 『楽器的幻覚』『回転木馬』『鈍感な少年』 、、、、、、、、、、、、、、、、、 ――スペインの村を模擬したテーマパーク。 (贋作としての遊園地・・炎ゆる頬――土を喰う夏の葬列のあと・・。) テーマパークゾーン 34ha ホテルゾーン 8ha 保存緑地ほか 71ha <旅のスナップ> かもちゃんがどこからともなく現われてきて言った。 「CMで使用されているテーマソングは『きっとパルケエスパーニャ』ダロ」 、、、、、、、、、 ぱるけえすぱあにゃ。 ――ばるす! 、、、 、、 、、、、、 派手さというか演出というか、ワクワク感という意味では、 ずっと、 USJや、ディズニーランドの方が上だろう。 <朝 の ヨ ッ ト に 不 思 議 の 仲 間 の 姿 が 揺 れ る> ・・・羽根の生えた贈り物。 カルメンの衣装『バタデコーラ』 [ある心の風景を、見てい――る・・ 永遠の前の一瞬、追い風、その細き道、 自分にも、忘れ難い友がいたことを思い出す・・] そして風のように、かもちゃんが、現われてきて言った。 「ハビエル城博物館の展示物を見逃すな!」 ・・・・え、この鳥何しに来たの? 、、、、、、、、、 ぱるけえすぱあにゃ。 しかし、気軽な遊び場所としてや、 行ったことのない国に思い馳せるという意味では、 いい場所だとも思う。 「ま、ま、まっ、ま、ま、まあね。」と、秀一。 認めたくはないけれど、認めたくはないけれど、 一家に一台どうですか、ポンコツロボット希美衣! (それにしても、如月というのは、 物静かな時の竜也にすごく似ている・・。) <それでも僕等は白いシャツが欲しい> 広大な敷地・・・お城・・・船――― (ベストテーマパークだよ、金額的に・・。) (ひらかたパークも素敵だけど、USJやディスに―行ったら、) (冬を越えられない・・) そしてかもちゃんが、真面目な顔をして言った。 「フランスでテロがあったあと、日本人観光客来てと、パリの市長言ったダロ。 あれは素晴らしかったと思いますダロ。だから、ぱるけえすぱあにゃも、 外国に向けて、しいてはスペインに向けて、ぱるけすぱあにゃ、に来て、 と、言わなければならないダロ。最後にバルス忘れず。」 、、、、、、、、、 ぱるけえすぱあにゃ。 ――ばるす! 1994/3,755,500人 2013/1,410,000人 ――ばるす! 「・・・でも、アトラクションのところどころに、 マッサージ機があるのは、不自然だね。」 (そういうところが、しなびた遊園地感覚を出している。) 竜也が言っていた、テーマパーク総事業費約六○○億円・・。 (竜也が言う、遊園地って映画みたいなものだよ、ひとつの作品に、 どれだけのスポンサーがいて、どれだけの手がかかるってかってこと。 どれだけの支援者と利益を一致させて、なおかつ、そこに夢を語れるかってこと。) 眠りに落ちる瞬間の、むむむ、とした抵抗――。 「でも、――考え方だよ。かもちゃんと姉ちゃんだったら、 これもまさか、最新式の、とかテンションハレーションで言いだす。」 不自然なのは、その二匹だ、と秀一は言いたいだけである。 二人はジェットコースターに通りかかる。 “優しさごっこ”という“友達ごっこ” でもそれが―――心の表面を泡立たせ・・るなんて、 僕には想いもよらなかっ――た・・。 感覚の灼けた熱が真っ赤に鍛えてくれ――る・・。 こめかみのように熱く、眼の奥がずきずきする・・。 やわらかく高まり低まりする弱弱しい深呼吸をせよ正午前――。 「でも、ピレネーというジェットコースターはこわそうだね。」と、如月。 「乗る?」と秀一。 一瞬どうしてか、夏の午後の砂浜の強い紫外線を思い出す・・。 傷跡のように細い三日月形の陰影・・。 距離にして四百メートル――。 「いや、――遠慮しておくよ。でも、秀一君がそうしたいなら、 私に遠慮せず、そうしてくれ。 私は楽しまないようにしているんだよ。楽しんでしまうとね、 そこでたくさんのかかわりを持つようになってしまうからね。」 と、意味深なことを言う、如月。 そこには相手を不愉快にさせる意図もなく、淫猥な粘りもない。 非現実的な手だ。それが、心や魂をむずむずさせ――る・・。 竜也が奥底に持っているような、憧れの何かを、如月も持っている。 ・・・エバンシーホール。 『たとえばジュエリー・ケースに施された絹の内張り』 (でもそれを、救いのない暗黒、と呼ぶこともできる。) (でも、本当、竜也なら、 言いそうなことをわりとサラリと言う・・。) バルセロナのランブラス通り・・ かもちゃんが、何故か頭にちょんまげしながら言った。 「やっぱり、テーマパークのコンセプトテーマを“スペイン” から南米等を含む“スペイン語文化圏”にしたのが、微妙デスナ・・。」 、、、、、、、、、 ぱるけえすぱあにゃ。 ――ばるす! 「でも、スペインへと行ってみたらこんな風かと思うね。 異国情緒にあふれているし、だから風景はきれいだし、 機関車やパレード、あの家の造りも素敵だ。ヨーロッパの文化というのが、 こうやって日本という国でも体験できるなんていい時代だね。」 (頭の中のきっちりした回路を持ちながらも、どこかにひそむ純なものがあって、 ちょっとセンチにうつる。でも、そこが奥ゆかしく半透明に明るむ・・。) 「・・・確かに、この完成度はすごいと思う。 でも、こうやって来てみると、本場はどうなのかなって思うところもある。」 (と、俺まで何だか、高尚な会話をする始末――。 でも、こういう友達がいるというのも悪くないなと思う・・) <た く さ ん の ボ ー ト が 行 き か っ て い る み た い だ か ら> ・・・頭でチョコレートが溶ける。 *