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宮の独り言

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2009.03.30
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カテゴリ:コードギアス
調停会議二日目。
始まりはやはりアルビオン両陣営の罵り合い、あるいは一切譲歩の無い解決案の提案から始まるものと思われた。
しかし開始早々、先日の失言の影響も冷めやらぬ内にレコン・キスタ陣営からクロムウェルが発言を求めた。
各国の代表らの視線は酷く寒々しいものでありながら、クロムウェルは恥と言う言葉を知らないのか、全く気にする様子もなく胸を張って立ち上がる。
彼は声を張り上げた。

「各国の代表の方々、我々は前日の会議で寄せられた意見、あるいは非難の言葉を鑑みてアルビオン王国との和解を前向きに取り組んでいく方針を持つという結論に達しました」

ザワリと場の空気が揺らぐ。
驚愕が場の雰囲気に広がり始め、アルビオン王国側も動揺を隠せずにいた。
そんな中、ルルーシュは淡々とした様子で言う。

「それはレコン・キスタの総意と考えて良いのでしょうか?」
「その通りです、ランぺルージ議長。我々とアルビオン王国は悲しいすれ違いにより戦端を開き、民の困窮という悲惨な結果を生み出しました。再びアルビオンに秩序を取り戻す為にも双方の歩み寄りによる和解こそが最善の道だと我々は確信するに至りました」

大きく身振り手振りを加えて朗々たる声でクロムウェルは宣言した。
そしてレコン・キスタからの歩み寄りによる和解を望む態度、これを眺めほくそ笑む者が一人いた。
ガリア国王ジョゼフ一世である。
彼は昨日のクロムウェルの失態を受けてそのミスがまだ致命的なものではないと判断するや否や、己の使い魔を介してクロムウェルに起死回生の策を与えた。
それがこの和解への歩み寄りである。
反逆者であるレコン・キスタは本来和解などあるわけがない。
和解に至れば良くて権力の剥奪、最悪アルビオンを騒がせた者として処刑される可能性もあるのだ。
レコン・キスタが和解を申し出ると考える者は非常に少ない。
だからこそ、この策には効果があった。
レコン・キスタが歩み寄りの姿勢を見せた事でアルビオン王国もある程度の譲歩を迫られる事になる。
アルビオン王国が再びここで一切の譲歩を拒む発言を行えば、逆にアルビオン王国の強硬な態度によりマイナスのイメージが各国に植えつけられる。
そうなればクロムウェルの失言で失墜しかけたレコン・キスタの威光も再び浮上する事になるだろう。
そしてもう一つ、アルビオン王国に付け込むべき急所の存在である。

「しかし我々とアルビオン王国を対立させるに至った原因、これの解明は未だ一切なされておりません。そう、モード大公の謎の処刑です!」

クロムウェルは腕を横に薙ぎ払い、豪奢な僧衣を翻してウェールズらの方へと視線を向けた。
ほんの一瞬の視線の絡み合い、しかしすぐにルルーシュへと振り返る。

「ランぺルージ議長、レコン・キスタは和解への第一歩としてアルビオン王国にモード大公の処刑に関する真実の公開を要求致します」

不気味に笑みを張り付けながら、クロムウェルが席に着く。
まだ会場はざわついていた。
ジョゼフはアルビオン王国代表団を見た。
かなり動揺した様子が広がっている。
おそらく昨日のマザリーニ枢機卿の追及によって失速したレコン・キスタの勢いをさらに殺ぐ為に、様々な非難の材料を集めて今日の方針を立ててきたのだろう。
だが予定は大きく外れ、彼等は一転して窮地に立たされた。
元々アルビオン王国のモード大公に対する処遇は極めて異例としか言えないものである。
通常貴族の処罰と言えば爵位の剥奪か領地没収だ。
それをいきなり罪状を明らかにしないまま実弟を処刑するのであるから、不信感を抱かれないわけがない。
ジョゼフは真実を知っている。
ゆえにその真相をアルビオン王国が軽々しく口にできないのだという事を十分に理解していた。
ジョゼフの予想通り、アルビオン王国代表団はレコン・キスタの要求に対する対応に迷っている。
選択肢など元からないのだ。
レコン・キスタの譲歩によりアルビオン王国は強引な対応を取れなくなっている。
各国の目が光る中で真実を告げる以外の道はない。

「アルビオン王国代表団はレコン・キスタの要求を受け入れ、モード大公の処刑について話す意志はありますか?」

ルルーシュの声にしきりに高齢の貴族に何かを訴えていたウェールズがハッと振り向く。

「勿論です!」

しかしウェールズに何かを言われた老貴族の顔色は悪い。
再びウェールズにせっつかれて、彼はようやく重たげに腰を上げた。

「モード大公の処刑の理由は・・・それはエルフとの密通です」

驚きの声が幾つも上がった。
それはアルビオン王国代表団の中からも聞こえてくる。
ウェールズでさえ知らなかった様子で目を大きく見開いていた。
ハルケギニアの民にとってエルフは敵以外の何者でもない。
もしモード大公が本当にエルフを匿っていたとなれば処刑も納得がいく。

「ランぺルージ議長!」

クロムウェルが再び手を上げた。
ルルーシュの指名を受けて再びクロムウェルが発言権を得る。

「アルビオン王国はモード大公がエルフと密通していたと告白しました。しかしこれは偽りとしか言えないものでしょう!」

その言葉に先ほど発言した老貴族が怒りを露わにして立ち上がった。

「嘘ではない!モード大公はエルフの女性を屋敷に匿い、挙句の果てにそのエルフとの間に子供までもうけていたのだ!」

信じられない様な言葉が飛び出す。
各国の代表らは言葉を失い、ただ事の成り行きを見つめていた。
クロムウェルが嘲笑うかの様な表情で老貴族を見つめる。

「到底信じられませんね。ハルケギニアの民でありブリミル教徒であれば皆エルフの恐ろしさを知っています。決して恋に落ちるなどあり得ません」
「だが現実に!」
「ましてや、サハラに接しているガリアやゲルマニアならばともかく、何故アルビオンにエルフが現れるのですか?実に筋が通らない話です」

クロムウェルはそう言いながらアルビオン代表団をねめつけた。

「証拠を提出して頂きたい」
「なッ!?」
「モード大公の処刑の原因がエルフの女性にあるというのであれば、その証拠を提出しきちんと我々に、各国の代表らに示して頂きたい!」

もはや完全に形勢は逆転していた。
クロムウェルの発言に矛盾点は無い以上、アルビオン王国が己らの主張を証明する為には確たる証拠を必要とする。
しかしここでアルビオンのモード大公の処刑時の対応が仇となった。
王家の不名誉を隠蔽すべく、限られた人数での作戦遂行および徹底した証拠の隠滅が図られていたのである。
エルフの女性の存在を示す証拠などもう彼等の手にはない。
すなわち証明は不可能なのである。
ルルーシュはアルビオン王国が圧倒的な劣勢に陥った事を確信した。
会議の終焉が徐々に見え始めていた。
そしてそれはルルーシュやジョゼフの予想する通りの形でやってくる事となった。
不意に開かれる扉、何やら慌てた様子で警備騎士達に止められた彼はやがてその所属を明らかにして会場に入る。
レコン・キスタの者だった。
彼はクロムウェルの傍に駆け寄ると、何事かを耳打ちする。
その次の瞬間、クロムウェルは勢いよく立ち上がると大きく声を張り上げて言った。

「皆さん、大変残念な知らせが舞い込んできました。アルビオン周辺の空域において警備を行っていたレコン・キスタ艦隊がアルビオン王国軍と思われる武装集団に襲われました。これは重大な協定違反です。直ちに制裁の発動を要請します」

その言葉に、ウェールズが即座に反論を行う。

「それこそ事実ではない!これはレコンキスタの自作自演の行為であり、アルビオン王国、ひいてはハルケギニア諸国の信用を裏切る行為だ!」

困惑が会場を満たしていく。
どちらの主張が真実であるのか、それも見極め切れずに誰もが不安に駆られていた。
しかしそれを聞くルルーシュの顔に動揺は無い。
ただ予想通りの会議の終わりが訪れただけである。

「ゲルマニア帝国は調査団を派遣しレコン・キスタを襲った者達の正体を暴く必要があると提案する」
「ガリアもその提案に賛成する」

今まで積極的に会議で発言する事のなかったゲルマニア、ガリア両国の提案に各国は戸惑い気味に賛否を示せずにいた。
その隙をついてレコン・キスタの代表団が毅然とした態度で一斉に立ち上がる。

「それでは遅い!既に協定は破られレコン・キスタの同志等はアルビオン王国軍から攻撃を受けている。我々は停戦の協定は失効したと判断しこの卑怯極まりない攻撃に対して直ちに反撃する!」

ルルーシュはその宣言と共に会場から足早に出ていくレコン・キスタのメンバーの背を眺めて軽く息を吐いた。
レコン・キスタの今の対応はゲルマニア、ガリア両国を敵に回しかねない行為であったが、逆に言えば他国の干渉を撥ね退けていた調停会議前の状態に戻っただけである。
現段階でゲルマニアもガリアも軍を出す大義名分は存在しない。
ならばこれ以上停戦を引き延ばされるよりもすぐに戦争を再開した方が有利と考えたのだろう。
取り残されたアルビオン王国代表団はレコン・キスタを非難するような声明を述べるが、各国代表等の反応は薄い。
元々調停の失敗を予定した上での会議である。
もはや彼等の関心はアルビオン両陣営の勝敗では無く、今後のレコン・キスタに対する戦略へと向かってた。
ウェールズもその流れを見てとると悔しそうに顔を顰め、しかしすぐに他の貴族達を引き連れて急ぎアルビオンへ戻る為にフネへと向かって行った。
こうして調停会議は多くの者達が予想した通りの結末を迎え、アルビオン王国滅亡へのカウントダウンが始まったのである。





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最終更新日  2009.03.31 00:38:03
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