脱原発を選んだドイツでCO2排出量が急増
2022年までに脱原発を決めたドイツに発生する隠れたコストを明らかにする研究結果が発表されました。脱原発によって急増するCO2排出量と社会的費用の「致命的な誤算」を指摘するこの結果は、原子力エネルギーの行く末が混迷を極める米国に大きな教訓をもたらしそうだ、と、報じられています。2019年に停止されたフィリップスブルク原発は、この10年にドイツで廃止された11番目の原子力施設です。ドイツで稼働中の残り6基の原子炉も、2022年末までに停止される予定です。ドイツで、脱原発の動きが明確になったのは、1980年代半ばに発生したチェルノブイリ原発の事故後、ドイツ上空に放射能雲が流れ込んだことがきっかけといわれています。ところが、非営利団体の全米経済研究所(NBER)が2019年12月に発表した研究結果によると、ドイツの脱原発という判断は、多額の出費を伴う致命的な欠陥があった可能性が指摘されています。経済学者はドイツの脱原発にかかる隠れた費用を明らかにすべく、2001年から2017年にかけて収集された大量のデータを分析しました。この結果、カリフォルニア大学バークレー校、サンタバーバラ校、カーネギーメロン大学の研究者たちは、原子力発電の大半が石炭火力発電所からの電力に置き変わったことで、CO2排出量が年間3,600万トン、すなわち約5パーセント増加したことを突き止めました。さらに悲惨なことに、石炭燃焼量の増加によって、発電所の周辺で粒子汚染の悪化や二酸化硫黄排出量の増加が生じ、呼吸器や循環器の疾患による死者が年間1,100人増加することも推測しています。また、CO2排出量と死亡者数の増加に伴う社会的費用は、総計で年間約120億ドル(約1兆3,000億円)に相当するとしています。この研究論文によって、メルトダウンのリスクや放射性廃棄物の処理コストを考慮しても、脱原発には原発を稼働させておくためにかかる費用を数十億ドルも上回るコストが発生することが明らかになりました。どんなものにも、メリットとデメリットがあります。原発を頭から悪者と決めつけず、冷静に、客観的に評価を下す必要があると思います。