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長編時代小説コーナ

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Jun 11, 2007
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カテゴリ:暗闘
「隊長、皆さんが集まったようです」  速水参謀長が告げにきた。

「大広間にご案内を、わたしと坂田副長は先に行ってます」

  茂吉と坂田副長が大広間に向かった。和泉屋に集まるよう命じられた上塩

原、中塩原、下塩原の名差の人々が集まり、速水参謀長の案内で大広間に向

かいながら、不安そうな顔をしている。

「隊長殿がお待ちかねにござる」  速水参謀長が襖を開けた。

  朝比奈隊長と坂田副長が平伏して一同を迎えていた。

「これはいかが成されました」  太兵衛が、いぶかしげな声をあげた。

「夜分にお集まりいただき恐縮至極にござる。遊撃隊本部の命令をお伝え申す」

坂田副長が威儀を正した。  「何事にございますか?」

「皆さんには申し訳ないが、この塩原町の焼き払いを命じられました。日頃から

のご協力にたいし非道な・・・命令を遂行いたす」  坂田副長が感極まって言葉

につまった。  「そのお話は本当にございますか?」  太兵衛が聞きなおした。

「我等は二十三日に当地を引き上げます、この塩原は政府軍にとり咽喉から手

がでるほど欲しい戦略上の要地にござる。政府軍に渡さぬよう、その前に焼き払

いを命じられました」 坂田副長が説明し、茂吉が平伏したまま口をひらいた。

「副長の申す通りにございます。恩義の判らぬ我等を恨んで下さい、明日から家

財道具を持って避難されるよう、お願いいたす」  「お手をあげて下され」

太兵衛が苦しげに茂吉に声をかけた、彼等にも判るのだ。この戦がいかに会津

藩にとり重大な事か。 「町は焼けましょうが、いずれ我々の手で復興させます」

  名差の全員が肯いた。茂吉が顔をあげた、無念の涙が頬を伝っている。

「明日中に引越しを終えて下さい。我が隊士も出来るかぎりのお手伝いはいたし

ます。二十二日には風上より火を放ちます」

「判りました。我等に内緒で焼き払うことも出来たでしょうに、前もってのお達しに

感謝申します」  田代太兵衛が茂吉に礼を述べた。

  翌日から塩原一帯は、家財道具を持ち出す人々の群れでごったがえし、隊士

たちも懸命に手助けをしている。氏井工兵士官と岡本文造が隊士を引き連れ、

和泉屋と丸屋の取り壊しに没頭していた。  

「丁寧に扱え、天井板から床板まで番号を記すのだ」

  彼等は、たるきや抜きまで番号をうっている。

  塩原は四百軒もの町屋がある。「ひどい」  隊士たちは三ヶ月も世話になっ

た町中を駆け廻り、仏壇や箪笥を運びだしている。

  妙雲寺にも隊士が出向き庫裏や本堂から、大切な品を裏山に運びでしてい

た。 この古刹の妙雲寺は由緒ある寺で聞こえていた。平家滅亡のおり、平重盛

の菩提を弔うために建てられた寺であった。

「隊長、この寺だけは残しましょう」  「参謀、命令は絶対です」

  言い切る茂吉も、その思いで一杯であった。

「会津の戦略は判ります、この町を焼き払い補給基地に出来ないようにして冬の

到来を待つ。しかし四百軒もの町屋を焼き払えば、寺のひとつやふたつはどうで

もない」  国学者の速水小三郎が執拗に食い下がっている。

「隊長、本堂の天井に菊のご紋章が八十八も描かれてあります。いずれも金色

です、これを焼いては朝敵の汚名をきることになります」

  山田熊之助が泣きそうな顔で報告に現れた。菊のご紋は御上の紋章、さらに

郡上藩も菊葉の紋章である。 茂吉がはたっと困惑している。

「速水さん、どうしたものでしょう」  「どうしても焼かれると申されるなら、筆で

バッテンをつけましょう。墨で消せば無かったことになります」

  本堂は仏壇も祭壇も運びだされ、無人の荒れ寺の風情を見せている。

隊士たちは懸命に竹棹(たけざお)で菊のご紋章にバッテン印しをつけている。

「政府軍の馬鹿野郎」  山熊隊士が罵り声をあげた、戦いの非情さに憤りを示

しているのだ。振り返ると塩渓和尚がひっそりと佇み、念仏を唱えていた。

「和尚、申し訳ございませぬ」  「全ては御仏の思し召しじゃ」

  怒るでもなく和尚は飄々として奥に消えた。

 (この寺だけは残そう)茂吉が命令に逆らう覚悟をかためた。どうせ政府軍が

進駐してくる、会津藩に知れる筈はない。

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Last updated  Jun 11, 2007 08:58:47 AM
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