父、倒れる2002年7月早朝、寝ていたら母がドアの向こうで私を呼んでいる。 「起きて、起きて、お父さんが裏口で倒れちゃったの」 と、言う。 主人と二人で、寝ぼけ眼のまま1階に降りる。 勝手口で父があお向けで倒れていた。 口をもぞもぞさせ、寝ているように見えた。 呼びかけにも、反応しない。 下手に動かさない方が良いかもしれないので、様子をみながらゆっくり起こし、ソファに寝かせた。 何を問い掛けても返答がおかしい・・・・ すぐにH病院の主治医に連絡を取ると、それは癌が原因ではなく別の要因だろうから、すぐに近くの病院に連れて行くように指示を受ける。 H病院までは車で約2時間かかるから、近くの病院でとにかく応急処置を取った方が良いとの判断だった。 近くの病院に電話をかけ症状を訴えると、外来で連れて来られると、どうしても優先度合が低くなるから、救急車で運んで来るように言われ、生まれて初めて救急車を呼んだ。 父は貧血で倒れ、後頭部をコンクリートに打ち付けて、頭蓋骨にヒビが入り、前頭葉を損傷している事がわかった。 つまり、脳挫傷だ。 脳圧を下げる処置が取られた。 このままでは命が危険だという事、そして助かっても脳に後遺症が残り、人格自体が変わってしまう事等が説明された。 幸い、脳挫傷で死ぬ事は無かったが、確かに人格が変わってしまった。 前頭葉は物事を記憶する場所で、実際父は自宅の住所も言えなくなった。 家族や親しい人の事はちゃんと認識出来ていたが、まるで認知症の老人のようになってしまった。 父が倒れる3日前は丁度、定期的な通院の日で検査の結果も出ていて「問題なし」と言われたばかりだった。 最近、食事量が減り、時々38度の発熱をしていたのでこの検査結果はドキドキものだった。 今、思うと「進行」のシグナルだったように思う。 検査では問題は見つからなかったけど、体が癌細胞の活発化に対して変調をきたしていたのではないだろうか? 父は38度の熱を出していても、その発熱の自覚症状がなかった。 体温計で計ると38度を越えていて、 本人が「壊れているんじゃないか?」って頭を傾げていた。 時に、貧血でしゃがみ込む事が多くなってもいた。 そんな変調に不安を感じていた頃に、父は倒れてしまい、事実上私のよく知る父はある日突然いなくなってしまった・・・・ |