奇跡
大海原に放り出されてからというものボクはひたすら漂うしかなかった波に翻弄され獰猛な猛禽に怯え寒さに凍え血に飢えたサメに追われすべての感覚が麻痺するままに任せていたそう…死さえも受け入れるほどに…そんなある日…頭の上に何かが止まった鳥?そう、それは空を舞う、海の小さな鳥のようだった飛び続け疲れ果てた彼女は辺りを見回し、羽を休める場所としてボクの浮き沈みする頭を選んだようだったあの日からすべては変わったボクは独りではなくなったのだ彼女はボクの頭をよっぽど気に入ってくれたようでなかなか飛び立とうとしない頭の上に恐らくちょこんと座る彼女との会話はとても楽しく、スリリングで、癒される。頭上の彼女を一目見たいと思ってもそれは叶わないし、彼女からも、ボクの全身は見えない。それでも、ボクはその言葉から、大きな安らぎを得た。間違いなく、可憐で愛らしいはずだその、愛しい小鳥が広大な大海原の中から、他の、丸太や小島ではなく、ボクの頭を選んでくれたことは、奇跡に近い。その奇跡のおかけで、ボクは孤独や寂しさを軽減できる。今でさえ波に翻弄され獰猛な猛禽に怯え寒さに凍え血に飢えたサメに追われている。でも、決して独りではない!勇気が沸いてくる!もちろん、その小さな小鳥とボクとでは悲しいかな住む世界が全く違う存在だ。それでも…それでも、ボクはその小鳥がボクを見つけ出してくれたことに、ボクの頭上に止まってくれたことに、そして…ボクと言葉を交わしてくれたことに、心から感謝している。これからどうなるか?小鳥が飛び立つのか、ボクが沈むのか、このまま、漂い続けるのか…全く分からない。ボクは預言者じゃない。それでも、このささやかな幸せを大事に大事にしよう。これから先、何が起ころうとも、小鳥の大きな存在とかすかに見える希望を噛みしめて…。