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テーマ:DVD映画鑑賞(13606)
カテゴリ:映画
■見終わったあと、思わず腰を捻って「ジュリー」って呼んでみた。声に出して呼びたい名前だ。満員電車のドアに押し潰された顔に始まり、舗道を歩く独特のニヒルな表情で終わる。もし主人公がジュリーでなかったら、この映画もっともっと、長く太く語られていたのかもしれない。他の若手俳優を起用しても、充分満足が得られる内容になっていたはずだ。
■ジュリーの映画という先入観がこの作品の名作感に水を差してしまっているのではないか。彼の演技が不満足というわけではない。当時の彼の知名度、存在感があらかじめ映画の出来映えを越えたところで話題になりすぎてしまったのではないか、ま、余計なお世話だ。DVDでこの作品を見直してみて、実は初めて通して見たということに気づいた。内容は語り尽くされていたので、一回見たような錯覚に陥っていたのだ。 ■序盤のバスジャックのシーン、伊藤雄之助の要求は皇居に行って戦死した息子の話をする為に陛下と面会させろというもの。戦時中さながらの銃と手榴弾で武装したこの犯人の国家に対する一世一代の壮大な要求。それに対し、原爆という壮大な最終兵器をひとりで作り上げてしまったものの、理科教師、城戸には要求すべき何ものもなかったのだ。というこの対比が素晴らしい。 ■思いつきで彼の考え出した要求はナイター中継の延長とローリングストーンズの日本公演の実現。このエピソードはこの作品が長く語られる由縁。掘り下げて考えれば、日本人の持っていた精神性なり正義感が全く変容してしまい、ノンセンス、ノンセンスという叫びによって中心が空洞化してしまった時代のデフォルメなのではないかということ。ともあれこの二つの要求に見ている側はかなり共感してしまえるという気分こそ、この物語の狙いでもあるのだということ。 ■面白いものが溢れている映画である。原爆製造過程をじっくりと見せる方法。間違って触ってしまうと爆発しそうな機械、機械、機械。まだ25年しか経っていないのにやけに懐かしい渋谷の風景。東海村でのプルトニウム強奪劇。「天国と地獄」のような犯人と警察の駆け引き。閣僚風役者勢揃い(北村和男、神山繁、佐藤慶)。女装や被り物のセンス。前時代的な逆探知。犯人焙り出しのデパート封鎖。屋上からの札束まき。ああ、初代RX7。んなばかなカーチェイス。そしてなにより不死身警部、菅原文太。 ■前言撤回。やはりジュリーだろう。自分の部屋で原爆と戯れるシーンはタクシードライバーのデ・ニーロ風味満載。妊婦の変装で国会議事堂に侵入するシーンの女装の美しかったこと。そして後半の武道館の見えるビルの屋上での文太刑事との対決シーンはちょっとお馬鹿なくらい素晴らしかった。絶対そうは見えなかった理科教師のミスマッチ感も含めて彼がこの作品に与えたインパクトはとても大きい。 ■先日「トップ・ランナー」で福井晴敏が自分の選ぶ日本映画ベスト3をあげていた。それは「日本沈没」「新幹線大爆破」そしてこの「太陽を盗んだ男」だそうである。大嘘は最初についておけ、しかし、それを全うする為、ディテールには細心の注意を払え。彼の作品にもこれらの映画にもあてはまる言葉だと思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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