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テーマ:DVD映画鑑賞(13604)
カテゴリ:映画
■音楽の力はとても大きい。松山猛が加藤和彦にこの「イムジン河」を紹介したのは60年代の中頃、そしてその場所はおそらくこの映画の舞台となる京都だったと思う。その後、加藤和彦はフォーククルセダーズ(以下フォークル)を結成して、この曲を入れた「ハレンチ」(漢字で書ける?)というタイトルのLPを300枚限定で自主制作することになる。
■「イムジン河」が放送禁止歌にあたるということはある程度リアルタイムでの記憶がある。ただその詩の内容のどこが公共電波に乗った時に都合が悪いのかということに関しては知るよしもなかった。それは日本にとって都合が悪いことだったのか、朝鮮半島の人々にとって都合が悪いことだったのか。スメタナの「モルダウ」が教科書にも載せられていた時代に、同じ河なのに、同じ祖国を想う曲なのに、なぜ一方は認められ、この曲が流されなかったのか。 ■青春群像劇として見るなら、大林の「青春デンデケ・・・」に匹敵する傑作だと思う。ずるいくらいに音楽の力を借りて物語が盛り上がっちゃうんだから。後半のオダジョーの「悲しくてやりきれない」、主人公コースケがラジオ番組勝ち抜きフォーク合戦で歌う「イムジン河」。特にこの2曲の使い方は見ている側を煽る、煽る。ちょっと反則じゃないかというくらいにね。 ■玄関をハンマーで壊さなければ棺桶も入れることができない家での葬儀。鰻の寝床に20人もの同朋が座して故人をしのぶ通夜。そこに居わわせたコースケに対する彼らの違和感の爆発。 淀川のシジミを食べたことがあるか? 土手の雑草を食べたことがあるか? 国会議事堂を、生駒トンネルを誰が作ったと思っているのか? いたたまれなくその場を立ち去るコースケが橋の上でギターを壊して咆哮するシーンの映画的たかまり。そのバックに流れていたのがオダジョーの歌う「悲しくてやりきれない」。まさにやるせないモヤモヤ感の爆発。 ■朝鮮高校と地元の高校との乱闘シーンがかなりの部分を占める。えげつないほどのその描写に好き嫌いはあるだろう。しかし不思議に誰も死なない。鉄パイプだ、角材だ、かなりの凶器を扱っているにもかかわらず。そして、双方いがみ合っているわりには後腐れがない。みんなが喧嘩慣れをしていた時代の話だ。キャッチコピーは「仲良くなりてぇから喧嘩しているんだ!」それにしても朝鮮高校生役の3人がみんな素晴らしい。特にアンソン高岡蒼佑の面構えに唸る。どこかで見た顔が日本人高校生役にいたと思ったら、チビTだった。元気だったか、チビTが長ランってとこが笑える。 ■縦軸はコースケとアンソンの妹キョンジャの恋愛劇。偏見と差別うずまく、あの時代のあの場所でのこの物語。好きになってしまった人がたまたま日本人じゃなかったということ。 あたしと結婚したら、あなた、朝鮮人になれる? もう一組はアンソンとちょっとおつむの軽い桃子。朝鮮に帰ると言うアンソンに彼女は自分の妊娠を打ち明けられないでいるんだ。 あんた、あいつには、似合わないと思う。 こんど、3人でレオポン見に行こう。 ■ラジオ局で番組ディレクター大友康平が上司とやり合うシーンも巧い。各所からクレームが来ているからと「イムジン河」を歌わせまいとする上司に抵抗する彼のセリフがまた良いじゃないか。 この世には歌っちゃいけねぇ歌なんか無いんだよ。 コースケのこの歌がラジオから流れる中で描かれるクライマックスでは、もうおじさん、ダム決壊。DVDで良かった。劇場でこんな顔見せられたもんじゃない。 ●素晴らしい脇役たち オダギリジョー(新選組!の斉藤一) モデルはアルフィーの坂崎さん。同志社大学の学生役でコースケにフォークルの存在とギターを教える。フリーセックスの調査にスウェーデンを訪れるも、その実態に幻滅し今度はアメリカのヒッピー文化に傾倒。ボートの上でキング牧師の「I Have A Dream」を披露。とにかく彼の登場シーンは全部好き。特に後半のゲバゲバのタメゴロー風カツラには笑った。 光石研(新選組!の伊藤軍兵衛) 担任教師役。黒板に毛沢東と書いて「けざわひがし」と読むんじゃないと、ひとりで突っ込むアドリブに受ける。当時はまだ強かった日教組、戦いを制するには戦いしかないってたきつけてどうするって感じだけど、いたんだろうなこんな先生。ラストではボリショイダンサーのヒモになっていた。本当にこの人、どんな役も巧い。 笹野高史(新選組!の考庵先生) 在日の長老役。通夜のシーンでコースケを叱責する迫力に唸る。黙っていれば風景役者として存在を消すのだが、いったんスポットが当たると周りを圧倒するパワーを見せてくれる。 ●ネタのかずかす オックスの野口ヒデトと赤松愛、そうかああやって自分たちも失神していたのね。 映画「世界残酷物語」と「女体の神秘」、R指定は無かったはず。騙されたという感想多し。 サッカーワールドカップ66年イングランド大会。「ワールドカップには泣いた」。北朝鮮がイタリアを破りベスト8進出。アンソンも祖国に帰って代表を夢見たのだ。 ボーリング3時間待ち、うちの近所のボーリング場は釣り糸方式で、たまに絡まって修復が大変だった。桃子がどことなく中山律子。 ■「パッチギ」は劇中アンソンがしばしば見せた強烈頭突きを意味する言葉らしい。関東ではそれを「チョーパン」と言った。ずいぶん昔のテレビドラマ「1970、僕たちの青春」というドラマでは筒井君がこの在日の役を好演。彼の決め技もこのチョーパンだった。 ■この映画で揺さぶられた人はぜひともフォークルの「戦争と平和」という作品を聞いてみて下さい。「イムジン河」は入っていないけど、メッセージ色が濃厚。音楽の力の大きさを再認識するのに充分な傑作になっています。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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