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テーマ:DVD映画鑑賞(13604)
カテゴリ:映画
■入り口が数多くある映画だと思う。1)犬童監督作品、2)田辺聖子の原作、3)くるりの音楽、4)妻夫木主演などなど。で、見終わった印象として、予想を上回ったのは池脇千鶴のジョゼ、お祖母さん役者・新屋英子の顔、佐内正史の写真、ホンモノの虎の迫力。
■冒頭写し出される想い出の断片のような写真の数々。海岸、貝殻、ラブホ、青空、閉館中の水族館、動物園、高速道路。主人公のモノローグにあわせて紹介されるそれらはこれから始まる話がもうすでに失われた物語である事を見る者にほのめかす。佐内正史さんは中村一義のCDのアートワークで知った。ここでの仕事もまたGood Jobである。 ■妻夫木のバイト先の雀荘での話題、得体の知れない老婆が毎朝早い時間に乳母車を押しながら歩いている。あの車の中には何が入っているんだろうか、あの婆さんはヤクの売人なんじゃないか。いや死んだ孫のミイラを乗せているのかもしれない。 ある朝、彼は坂道を転げ落ちてきたその乳母車と出会う。その中に入っていたのは、足の不自由な少女ジョゼだった。かなり特殊なこの出会いのシーンのインパクトで、すんなり物語の中に引きこまれてしまう。 ■普通の若者たちの話である。好きになった女の子がたまたま障害者だった。ジョゼは彼女が好んで読んでいたサガンの小説からとった名前。彼女は祖母がゴミ捨て場から拾ってきてくれる本を読むのが唯一の楽しみなのである。他人の本棚が気になってしょうがない私は彼女の部屋にうずたかく積まれた本の背表紙を素早くチェックする。漫画・文庫本・旅行ガイドブック・教科書・SM本。サネモネラとかルミノール反応とか妙な事に詳しい彼女。彼女にとって、続きが気になる本もあるけど、なにせ捨てに来るのは誰だか知れない他人たちばかりなのでそれもままならない。 ■ジョゼが祖母と作った朝ご飯が本当においしそうに見えた。だし巻き卵、あじの開き、みそ汁、ぬか漬け。おかわりする妻夫木をうらやましく見てた。ちっともバリアフリーでない台所で彼女はやけに激しい音たててドスンドスンと所かまわずダイブするのだ。ぼさぼさの髪、しまりのない大阪弁、歩けないという芝居、女優運というものがあれば、この作品に抜擢された池脇さんは非常にラッキーだったと思う。 ■女の子に乳母車を押してもらって坂道を上がっていくと、妻夫木くんの彼女である上野樹里が待っているというシーンがある。いわば女の決闘ですね。上野さん曰く、「あなたの武器がうらやましい。」彼氏をとられた彼女が発するこのセリフに代表されるようにリアルが全編に溢れている。この殴り合いの間中、女の子は後ろを向いてただ耐えている。最近の映画って子供に修羅場をあえて見せるという作り方が多いんですよね。この子、どんな娘になるんだろう。 ■ハイライトは彼とジョゼとの初めての小旅行だろう。両親に彼女を紹介するつもりで旅立ったふたりが選んだ寄り道の数々。途中立ち寄った初めて見る海。楽しみにしていた水族館が閉館中で彼に当たり散らすジョゼ。その代わりに見つけた魚の館という名前のラブホでの濃密な一夜。ここのCGは何度も見返したくなる。ジョゼの顔の前で抜群のタイミングで止まる深海魚。いや、この映画、池脇さんや上野さんと演じる妻夫木くんのラブシーンの撮り方がかなり生唾ものなんですね。なんか見ててドキドキしてしまう。役者的にも巧いんだろうけど、どう撮ってどう見せるかっていうのは大きいですね。犬童監督、ただものではない。 ■どんなときもジョゼを背負って風景を共有する彼を見ていて、重いだろうなって感じた気分は否定しない。吐息がかかるくらいに身近に彼女の喜びを感じられる事と実際に背中に感じる彼女の重さがいつしかバランスを崩す時が来るんだろうなと。 そして彼はひるんだ、そして逃げた。 ■最初感じたラストの後ろめたさは徐々に払拭されつつある。それは捨てられたと感じたジョゼが実はちっとも弱い者ではなくて、むしろ彼の方が置いていかれた様に見えてきたから。彼女の焼いていたサワラがとてもおいしそうで、それを食べようとする彼女が台所からダイブしてフレームアウトするラストシーンを見てそんな気がしてきたのだった。そしてエンドクレジットで流れるのがくるりの「ハイウェイ」、誰もこの曲が終わるまでは席を立てない映画だ。なんか、もう一回ジョゼに会いたいと思うのは私だけじゃないだろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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