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テーマ:DVD映画鑑賞(13606)
カテゴリ:映画
■大好きな映画だ。おそらく岩井俊二はコミックに相当精通している。こんなにセリフに吹き出した映画は久しぶりだ。自分の中でのクスクス笑い率は最高の部類に入る。なんか北野映画に通じる「間」が良い。たとえば4コマ漫画の王道が起承転結だとすれば、この映画のオチは3コマ目に来ていて、4コマ目にはすごく「素」な彼女たちの真顔が挿入される。その表情の余韻がすごく浸みるし、またおかしいんだ。
■花が一目惚れする先輩は、駅のホームで、志ん生のちくま文庫を読んでいる。おそらくヘッドフォンで聴いているのは落語だ。何かブツブツ言ってると思ったら寿限無だよ。ちなみに「タイガー&ドラゴン」より少し前の映画だ。しかし、彼を慕って落研に入るのは蒼井優ではなくて鈴木杏ちゃんの方だ。この子、本当に芸達者。将来は大竹しのぶになってしまうのかもしれない。宮本先輩役は郭智博、ルルのCMで竹内結子におでこくっつけられていた子だ。リリィ・シュシュにもいたぞ。遠くから見ると「小さな恋のメロディ」のマーク・レスターに見えないこともない。 ■女子高生が普段しているであろう会話に溢れているし、彼女たちが普段感じているであろう切なさとか、息苦しさに溢れている。でも、その断片を意味ありげに映画に焼き付けているのは成熟した監督であり、成熟したカメラワークである。そんなオトナたちは容赦なく画面に雨を降らせ、感傷的に花びらを散らせ、海岸ではトランプを吹き飛ばす。特にこのトランプのエピソードは物語を動かし、そして引き締めるのに一役も二役もかっていて巧妙。 ■劇中彼女たちが通うバレエ・スクール(インストラクター役は☆☆☆木村多江☆☆☆)における写真部の女の子の設定が巧い。彼女が撮った写真が後半文化祭に出展されるわけだが、そこできりとられた花やアリスたちの表情が素晴らしい。特に花びらをかたどった写真の象徴性ったらない。そこに青春の一回性みたいなものを感じ取ってついついオトナは涙腺を緩めてしまうのだ。 ■文化祭といえば彼女たちが通う学校はなぜか「手塚高校」。みんな手塚アニメの扮装をしていたのが笑えた。ここの作り方見せ方はかなり凝っていて、何回も見直したくなる。この祭りが始まる高揚した感じは最近なんかで見たなと思ったら、「リンダ・リンダ・リンダ」だった。落研の出番を教室で待っている宮本先輩と花ちゃんのシーンが好きだ。彼女の失恋の危機を鉄腕アトムの巨大バルーンがあの顔して窓越しに教室を覗いている。 ■その他にも鳥肌ポイントは本当にすごくたくさんある。その1、アリスと父(不動の父親俳優、平泉成!)の鎌倉散歩と中国語による横浜駅での別れ。その2、海岸でのハートのエースを探せゲーム。その3、アリスと宮本君の秘密のデート、花が彼についた嘘に荷担したはずのアリスの「ここでキスした」という嘘と「ところてん食べた」という嘘。その4、舞台袖で宮本君に全てを告白する鈴木杏のアップ。そしてやはりハイライトは大沢たかお演じるカメラマンの前で踊る蒼井優の素晴らしいバレエシーンだろう。このシークエンスのためにこの映画があるというのは言い過ぎだが、そう言いたくもなる。すごく美しいものを見せてもらった。鼻の下が伸びているわけではなくて、鼻の奥がツーンとしているんだってことを強調したい。(笑) ■全編に流れる音楽はなんと岩井俊二自身が作ったという。マイケル・ナイマンと言っても誰も疑わなかったと思う。彼のムーンライダーズ好きはファンには常識で、実はこの音楽、かしぶち哲朗風味も隠し味になっているんだということも付け加えておく。いやはや、本当にこの人、絵コンテも巧いし、脚本も巧みだし、多芸である。彼の人徳かどうかは知らないが、ゲストの数も尋常じゃない。全部わかった人はいるんだろうか。吉岡秀隆くんはどこに出ていたのか見直したら、声だけだったと思われ・・・ ■花と宮本君が見に行った映画は「ホルスの大冒険」花とアリスが降りた駅の名は「石の森駅」そして高校の名前は「手塚高校」、アニメ万歳ですかね。それから肝心なところで鳴るふたりの携帯の着信音が楽しい。細かい仕掛けの数々に何度も見返したくなる映画だ。DVDの特別版を買おうかどうか真剣に悩んでいる。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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