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テーマ:DVD映画鑑賞(13604)
カテゴリ:映画
■「しあわせなら手をたたこう」って、そりゃぁ良い歌だけれど、時と場所をわきまえて歌ってもらわなくては困る。間違っても地上ウンメーターの屋上のフェンスにしがみつきながら、手を離して何回叩けるか、なんてゲームを面白がってはいけない。いいかい、これは映画なんだぞ、ちゃんと防御ネットもスタントマンも護身用ロープも身に纏った中での撮影なのだぞ。松田龍平が平気な顔して見えるのは、そんな行き届いた環境があってこそのかっこよさなんだぞってことは知っておかなければならない。この物語はフィクションであり、なんてお決まりのフレーズの後に、良い子も悪い子もマネをしてはいけません、というテロップを最後に入れてもこの作品の魅力は殺がれないと思う。
■で、この物語の中には良い子も悪い子も両方とも出てくるかといえばそんなことはなくて、少なくともスポットが当てられるのはみんな良い子には見えない。早弁、たまり場、パシリ、喫煙、バイク、喧嘩、カツアゲ、ヤクザ、そして殺人。悪の難易度はSからLLまでそれこそ網羅されているのだが、それらがだいたい並列に描かれているところが「青い春」という作品自体のセンスなんだろう。(原作の松本大洋は未読ですが) ■冒頭屋上からこのカッコいい奴らが降りてきてそれがスローモーションになり、ミッシェル・ガン・エレファントの音楽がかぶさってくる一連の流れはまるで男子校のレザボアドッグスだった。 ■キャストはほぼ全員がクローズアップにたえる面構えを見せてくれるのだが、最初に引きこまれたのは青木役の新井浩文のカメラの方を振り返った時の顔つき。その視線の先には今新しく番長になったばかりの幼なじみ九條君(松田龍平)がいるわけで、彼に対する複雑な感情がその一瞬で切り取られたかのような表情が印象的。 ■そして、「パッチギ!」とはまた違ったタイプの危ない男を演じた高岡蒼佑。学ランとクラシックギターと銀縁のメガネとアイスクリームと肉切り包丁と。くわえタバコでギターを弾いている彼を踊り場で見つけたら、たとえ私が高校の生徒指導の教師であったとしても、一瞬見とれてしまうだろうオーラがこの人にはある。 ■甲子園の夢やぶれた大柴裕介がヤクザになった先輩に声をかけられ「グッドタイミングです」と言って、学ランを塚本高史に渡し、軽々とフェンスを乗り越えベンツに乗りこんでいくシーン。坂を駆け下りながら彼のつぶやく七五調の青春賛歌がまるで寺山修司のように聞こえた。 ■そして松田龍平の父親譲りのあの無表情と手足の長さ。好きなシーンは彼が校庭でひとりドリブルしてゴールに向かってシュートするいくつかのカット。彼が本格的にサッカーをやっているようには全然見えない(実際ほとんどのシュートが枠を外している)けれど、背後からそのシュートシーンを映すカメラアングルをすごいなと思った。 ■映画のラスト付近で彼らの場所である屋上すれすれのところを飛行機が飛んでいくシーンがある。あれは飛行機が極端に飛行高度を下げたのか、それとも青木が立ったあの位置がずいぶんとまた天国に近づいたのかどっちだったんだろう。それにしてもあの巨大な物体が画面に現れた迫力は圧倒的だった。 ■松本大洋原作作品としては「ピンポン」も素敵な映画だった。でも私はこっちの方が俄然好みである。監督豊田利晃がこの原作の映画化権を獲得した時、真っ先に思いついたのは主演の松田龍平の起用ではなくて、ミッシェルガンエレファントの音楽の方だったんじゃないかと思っている。私だったら最初に思いつくのがストーンズの「Paint It Black」であるが、このミッシェルの音はそんな予定調和を許さないほどこの映画にマッチした。この作品の魅力の半分以上は彼らの音楽であるといっても過言ではないと思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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