テーマ:☆詩を書きましょう☆(8382)
カテゴリ:詩
春になれば
木枯らしが音を鳴らす窓辺 病院のベッドに横たわる母の寝息 静かな埋もれた寝息を聞き逃すまいとする いつの間に忍びこんだ風が 魂を天国に連れ去ってしまうかも知れないから
恰幅の良かった腕も足も痩せ細って 小人になって 白いカバーの布団に小さく包まれている
ふと眼を覚まして言う 春になれば 春になれば このゴロゴロしたものも取れるかも知れないね きっと良くなって治るかもしれないね
涙をこらえて私は言う きっと良くなるわよ 暖かくなればきっと
胃がんを手術して半年もたたず再発 再発したらもう持たないといわれていた五十年も昔のこと 告知も問題視されていなかった時代 ひたすら病名を隠し 安らかに逝ってもらいたいと願っていた
でも生きてもらいたいと願う心のちぐはぐさ 窓から吹き込んでくる隙間風が錐のよう もう薬はない 父は最後の望みに生薬の菱を煎じて飲ませた
母は言う 春になれば 春になれば きっと良くなるね 暖かくなればきっと お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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