カテゴリ:☆落窪物語 少し簡略化した訳で
![]() 実は、昨年、「落窪物語」の版本を臨書したんですよね。版本は読みやすいし、変体仮名を読んだり書いたりする練習になるかな、と思って、小学生用の漢字ノートを使って書きました。 ただ、とても長いので、第一巻までで、一区切りとしました。 では、その第一巻の三回目です。姫の話を聞いて興味を持った右近の少将が、どんどん手紙を送ってきます。 <落窪物語 第一巻 その三> 八月一日のころ、姫君は一人で横になり、眠られないまま 「母君、私をおそばへお迎えください。」「悲しい」と言いながら 我に露あはれをかけばたちかへり 共にを消えよ 憂きはなれなむ (私を憐れんで下さるなら、この世に戻って私と共に消えてください。そうすれば、辛いこの世と離れることができます) と歌を詠みましたが、心が慰められることはありませんでした。 あこぎは、仕えている三の姫の部屋の近くに一部屋いただいていたのですが、それでは落窪の姫に対して申し訳ないと、姫のいる落窪の間の近くに、間口が一つの部屋をもらい、そこで生活していました。 夫の帯刀から話を聞いた次の朝、姫の部屋に行くと、話のついでに少将が姫に逢いたがっていることを伝えました。 「夫がこのように申しますが、いかがいたしましょう。このような暮らしをされていても、将来の希望がありません。(逢ってみられたらいかがでしょう。)」 と申し上げたのですが、お返事もなく、どうしようかと思っているうちに、三の君からの呼び出しで、そのままになってしまいました。 姫は(結婚をしてもしなくても、良いことがあるだろうか? 母君がいらっしゃらないので幸せにはなれない身。どうにかして死にたい。尼になってもこの家を離れることはできないので、死んでしまうしかない。)と考えていました。(注1) さて、帯刀が大将のお邸に来ると、少将から「あの話はどうなったのだ?」と聞かれるので 「妻に話しますと、このように申しました。本当にほど遠いことでございます。親のある人の方を急いで、姫の父の中納言も北の方にとりこまれているので、その姫のことは決して考えないことでしょう。」 「だからこそ、すぐに姫君の部屋に入れてくれというのだ。そのような姫の婿として扱われるのも、体裁が悪い気がする。可愛く思えたらここへ迎えよう。さもなければ、世間がうるさいからと言って、やめてしまおう。」 と少将がおっしゃるので、 「あなたのお気持ちをよく見定めてから、お引き受けしましょう。」と答えると、 「姫にお逢いしてから決めよう。逢いもしないのに、どうして決められようか。まじめに工作しろ。そう簡単には忘れないよ。」(注2) 「簡単に、ですか? けしからぬ言葉ですね。」と帯刀が言うと、少将はお笑いになり、 「長く、と言おうとしたのを間違えたんだよ。」などと言って笑い、手紙を渡したので、帯刀はしぶしぶ受け取り、あこぎに届けました。 あこぎは、「まあ、見苦しい、どうせよとおっしゃるのですか、つまらないことは申せません。」と言ったが、 「それでも、お返事をいただいてください、けっして悪いお話ではありません。」と帯刀が言う。 あこぎは手紙を受け取り、姫に差し上げたが、姫は見もしません。 しょうがないので、あこぎが紙燭を灯してお手紙を見ると、ただ次のように書いてあった。 君ありと 聞くに心をつくばねの 見ねど恋しき なげきをぞする (あなたがいると聞いただけで、筑波嶺ではありませんが、見ねども(逢ってなくても)恋しくて嘆いてばかりです) あこぎは、「まあ、素晴らしいお手(筆跡)ですこと。」と独り言をもらしましたが、姫君はそのかいもないご様子なので、手紙を巻いて御櫛の箱に入れて立ち去りました。 「どうだ、ご覧になられたか?」と帯刀が尋ねましたが、「いいえ、まだおこたえをされませんので、お手紙を置いて、こちらに来ました。」と答えます。 「どうしてご返事をなさらないのだろう、このようにしているよりは良いだろうに。私たち夫婦にとっても、理想的なのだが。」と帯刀が言うと、 「少将さまのお心が信頼できるようなら、姫君は必ずお返事をされることでしょう。」 一度目の少将のお手紙は、姫に見てももらえませんでした。まだ一度も逢ったことのない相手への恋の歌なのですから、こんな感じになるのでしょうか。 (注1) 当時の貴族たちの結婚は、自分の昇進とか、裕福な暮らしにつながるような相手を親が探してきて世話するのがふつう。そして、お付きの女房とか乳母とかがその親の意向を受けて、駆け引きをし、手引きをして結婚へとつながっていました。 当時の結婚は、家門の将来がかかった重大事ですから、親は必死だったのですね。 ところが、この姫は、高貴な血筋ではありますが、その母は亡くなり、父親も今の北の方の言うまま、姫のことをないがしろにしています。つまり、この姫には、結婚の話など来ないと思われます。 (注2) この部分で、それまでの少将が、いろんな女性と一夜限りの逢瀬を繰り返しながら、理想の女性探しをしていたことがわかります。「そう簡単に」のところは、原文では「ふと」と書いてあります。 そんな、ふと忘れられたりするようでは、女性はたまりませんね。 帯刀は、少将の家来ではなく、乳兄弟。だからこそ、こういう咎めるような言い方もできるのでしょう。 次は、よく朝、父中納言が姫の部屋をのぞくところからです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2016.10.05 12:37:44
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