昨日「ウクライナ」のドキュメンタリー映画について書いて、思い出すのは2019年11月に見た「Dreaming Haruki Murakami」というタイトルのドキュメンタリー映画です。正に「ハルキスト」のために作られた映画のようで上映があったのはシンガポールでも根強い「村上春樹」人気のお陰かなと思います。
映画は村上春樹文学をデンマーク語に翻訳してきたメッテ・ホルムが来日し村上春樹の故郷「芦屋」や小説の舞台となった土地を巡る旅や普通の人達との会話、村上春樹がデンマークの2016年「アンデルセン文学賞」を受賞し、授賞式に出席した際のメッテとの対談などに空想的な世界を表現したCGを織り交ぜての1時間ほどの物です。
村上春樹文学は世界中で40ヶ国語以上に翻訳されているようですが、実際は英訳を基に自国語に翻訳した物が多い中、メッテは日本語からデンマーク語に訳すという数少ない翻訳者の一人で、処女作「風の歌を聴け」の翻訳に当たって各ページの何ヵ所にもペンが入れられた本が映し出され「いかに短い言葉で作者の意図する事が伝えられるか」と苦悩のような彼女の言葉が印象的でした。
私自身は今でも一番好きな一冊は群像新人賞を受賞した「風の歌を聴け」で、特に最初の2文「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね」は哲学的で気に入っていて、この文が映像の中で何回も流れ、村上春樹の本が大きく映し出されるとそれだけで嬉しい気持ちになるのはやっぱり「ハルキスト」なんだなぁとしみじみ思いました。
そして今でも忘れられないシーンがメッテが日本に滞在中にバーのような所で日本人(役者さんとは思えませんでした)との会話のシーンで彼の言葉「村上春樹の本を最初に読んだ時、運命を感じた」というものでした。多分ハルキストの人達は自分も含めてこういう感覚を持っているんだろうなぁと苦笑いしてしまいました。
余談ですがアンデルセン(1805-1875年)を調べてみると、貧しい両親の下(母親は文盲)で育ったようで、その中で「人魚姫」や「みにくいアヒルの子」等々、今でも子供達に読み継がれている名作をどのような努力で編み出すことが出来たのか興味が湧いてきます。そして大人の感覚でもう一度読み返してみたいものです。