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THE Zuisouroku

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2024/03/17
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カテゴリ:小説












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「分かっておりました、貴殿の事は。ご立派なお方なのでしょう、これを見て分かり申した」
 伊藤平左衛門は袂から海野の身分証を取り出すと、海野にそれを返して、こう言った。

「貴殿が浜辺で行き倒れになり、雪斎殿の所へ担ぎ込まれた時、そのお返しした身分証と申す物のお顔で、分かり申した。貴殿は海野殿とおっしゃる、何処かの世から来られた、いずれにしても、ご立派なお方。雪斎殿も私も、それを見て分かっておりました。これまで、いつお返ししたものかと、実は困っておりましたが・・。先刻、貴殿が何かを言いかけて、中途で言葉を呑んだ。あれは、このこ事をお話下さろうかと、お思いになったからでは?」

「そのとおりです、伊藤殿。実は私もほんとうの事を、いつお話したものかと、ずうっと考えておりましたが、これまで、言い出せず。申し訳ない!この通りです・・・」

「いやあ!たける殿、お詫びを申さねばならぬのは、私の方ですよ。たける殿が担ぎ込まれた時に、その身分証、身分の証とでもいうのか、それが貴殿の懐から落ちまして、それで雪斎殿と私とでそれを見ましてなあ。始めこそ何か分かりませんでしたが、たける殿のご様子から、これはと、確かに別の世界からお出でになったお方だと、確信を致しました。それで身分の証を、あなたにお返しするきっかけが掴めませんでの、お返しできずに今日に至ったという訳で。誠に相済まぬ!たける殿」
 平左衛門はこう言って非礼を詫びている。
 
 海野は、素直に真相を言い出すきっかけを作ってくれた、この良き友に対して一気に、この世界に飛ばされて来るまでの経緯を話して聞かせた。それは、伊藤平左衛門にも不思議な話の数々であった。

「お信じになれなくても当然ですが、全てほんとうの出来事なのです。私が経験した事なのですよ、平左殿」海野はここまで話すと、一息入れた。
 伊藤平左衛門も、海野の話す事の、余りの不思議さに驚きながら、然し真剣に聞いていた。

「たける殿、疑いは申さぬ。先刻お返しした身分証なるものや、あのお顔の図。何と言うのか分りませんが、あの、物が透けて見える、固い覆いのようなものも、見た事も無い代物。あれを見れば誰でも、たける殿の仰せの通りと、信じましょうぞ。雪斎殿も同じ気持ちでおる」
 
 その身分証は、以前、海野が政府の海洋対策委員会で委員を務めた時に、当時、委員長であった内藤尋が渡してくれたものだった。それには海野の姓名や顔写真も当然入っている。
 浜辺で行き倒れになった自分を助けてくれた時に、医師の雪斎も、この伊藤平左衛門もとっくに自分の正体を知っていたのだ。それを自分が話す気になる時まで、見守っていてくれた二人の友に、海野は心から感謝をした。事実、海野にはこの江戸期の世界に誰一人知る人の無い身であった。
 然し今、自分を広い心で見ていてくれる二人の良き友がいるのだ。海野はしみじみと、それをありがたく思っていた。

「この事は、他言無用!!」平左衛門はこう言うと、海野に酒を注ぎ、自分もぐい!と呑んだ。
 勝手知ったる他人の屋敷。いつの間にか、診療を終えた医師の雪斎も、二人の後ろに立っていた。
「分かりましたよ!他言は致しません!」雪斎も全てを飲み込むと、持参した大きな徳利を二本、その場に置き、縁側に並んで腰を降ろした。
 今度は海野が、伊藤と雪斎に酒を注いだ。
 
 桜の古木も黙ってその、満開を迎えた花びらを散らす。



 
 中東の砂漠では、つい先だってまで巨大なサソリが暴れて、共食いを繰り広げていたが、どうやらその地獄も収まりをみせている。
 
 シヴァ神や神山たち一行の働きで、実体化した「悪意」や「般若」のこの世界に対する作用が無くなったためである。実体化した「悪意」が生んだ、巨大なサソリの群れも今は仰向けに丸くなって、巨大な屍を砂漠に晒していた。世界のどこより早く砂漠には、静寂と、風が砂を巻き上げる微かな音だけが聞こえている。
 ベトナムの港が、給油を求める各国の艦船で満杯になり、その各国の艦隊も歯が立たぬ、巨大な水棲生物に襲われているのを見て取った川島海将の素早い判断で、ベトナムから中東へと転舵した艦隊は、今はまだ、この陸上で起きつつある巨大生物の死を知らずに、沿岸に沿ってクエートを目指していた。
 海中にも、得体のしれぬ、巨大な生き物が潜んでおり、艦船を一瞬で海中へと引きずり込んでいたので、川島艦隊はこれを警戒したのである。艦隊は出来る限り陸に近い沿岸を航行している。
 然し海中でも、巨大な水棲生物が死んでいた。その屍もいち早く、今度は魚たちの餌になり、ほとんどは海面に姿を表さなかったが、後にそれが、巨大なイカやタコであったことを人類は知る事となる。
 水上艦は川島の旗艦『もがみ』を含めて三隻。残りは潜水艦が五隻の艦隊は、座礁に用心しながら慎重に航路を選んだ。
 
 人類は、未だ暴れまわった巨大生物が、間もなく死滅するであろう事を知らないのだ。




 その頃、内藤らの乗ったBOEING747二機は、無事にアメリカ合衆国連邦政府のある、シエラネバダの山岳に作った滑走路に降り立った。
 
 一瞬一瞬が緊張の連続だった。機が着地した瞬間、内藤も荻野も、そしてプラットも深い吐息を漏らしていた。「おい、荻野!生きて着いたぞ!!」内藤が、叫び声に近い大声で言いながら、荻野の手を取ってその甲を叩いている。
「生きていますよね!確かに!!痛いですから、総理」荻野も言った。予備機の中にいるプラットも、一人座席で十字を切って神に感謝した。
 大統領のハロッズもまた、これで何度目か知れぬ安堵のため息を吐いていた。取りあえずは!作戦成功だなと、ハロッズは思った・・・。
 内藤首相にはくれぐれも、こんどの「日本外し」の詫びをしなければ・・・・。

「アメリカ合衆国連邦政府の大統領になったと言う事は、神に文句を言いたくなるほど、骨が折れるね事だね」と、ハロッズがアーネスト国務長官に、冗談半部に言うと、キャシー・アーネストはいつも絶やさぬ笑顔でこう言った。
「あとで神に感謝をする事になりますよ、大統領閣下!報告では、巨大なエビやらカニやら!地上は、その死骸で一杯だとか。まだ、安心は出来ませんが、どうやら事態は良い方向へ傾き始めているのでは?もしそうだったら私は大統領閣下のために、カニやエビをたっぷり料理してさし上げますわ!!」

「もし事態が収束したとしても、カニやエビなど、もう沢山だよ。キャシー」
 ハロッズは心底、二度とロブスターやカニを見るのが嫌だった。

 その時、内藤らが間もなく機から降りて来るのを知らせるために、安全保障担当の補佐官、ハル・キンケイドは執務室に駆け込んできた。
 ハロッズは皆を伴い、執務室を後にした。

 (続く)

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Last updated  2024/03/17 04:45:21 PM
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