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THE Zuisouroku

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2024/03/17
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カテゴリ:小説













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 人類から地上を奪うかに見えた怪獣の様なエビもカニも、あらゆる水棲生物の巨大化した生き物たちも、次第にその数を減らしていた。
 これは実体化した「悪意」を打ち破ったシヴァ神や手力男、そして心理学博士の神山紀夫らの、異次元空間での奮闘があったお陰である。
 その結果、地上世界では巨大化した水棲生物の死骸を、まだ生きている怪物どもが喰らうという醜悪な物に変わっている。若し地上に人がいたとしたら、その人は巨大な水棲生物の死骸や、共食いで食い散らかされた死骸が放つ悪臭に、息も出来なかったであろう。
 幸いなことに、もはや地峡に人間は一人も存在しなかったのだが・・・。

 地下深くにある施設や地下の部屋に避難していた人々だけが、少なくとも呼吸を続けているのだった。
 無線機の無い、地下室の人たちはまだ互いに孤立し、地上がその様な状態になっている事を知らないのは、寧ろ幸いだったかもしれない。
 宮崎女子医大病院の地下四階には、病院長始め、西さんや職員たちが、患者の世話に尽力していた。
 大学の付属病院だったのが幸いして、医薬品や食料、飲料が半年分蓄えられていた。医師達も皆、優秀な人材ばかりの宮崎女子医大病院では、長い間の地下への幽閉状態の中、医師や看護師が、動ける患者たちを組織化し、役目を割り振って、自ら協力体制を作ったのだった。
 西さんは健康体で、頑健な漁師である。また、船乗りのシーマンシップをも心得ており、スタッフ達をよく助け、患者たちから信頼されていた。
 彼らのこの様な工夫と努力は、地下四階と言う空間でも、生きる希望の光となった。
 誰かが地上の怪物の、衰退し始めている事を知らせれば、猶さら良いのだが。

 西さんの次男、明太は海上自衛官の心得として、サバイバルを知っている。日本では、戦後初の正規空母『信濃』の通信士官である明太は、彼の愛車、ジムニーに無線機を積んでいた。上官から、両親の救援に行く許可を得た明太は、佐世保に入港したまま、燃料の調達が出来ずに動けない『信濃』を降りて、瓦礫の山と化した、幾つかの市街地をジムニーで走り抜け、サバイバル術で身を守りながら宮崎の市街地に入った。
 
 街は瓦礫と、巨大化した生物の死骸で一杯だが、明太はその悪臭に耐え、可能なら瓦礫を自分で取り除きつつ、宮崎女子医大病院の間近にまで来ることが出来た。
 明太はクレーンを自在に操る「海軍士官」だった。
 海上自衛隊では一人で何役もの役割をこなす事が求められる。
 通信科の士官で、二等海尉である明太も、クレーンの操縦を身に付けていたのだ。瓦礫を除去するのに、近くに乗り捨てられたクレーン車を見つけては、それを動かして自ら道を拓き、明太は漸く佐世保から宮崎女子医大病院の建物が見える所まで、辿り付いたのだった。
 あと、もう少しだ。通信士官の明太は、可能な限り、市街地の状況を、愛車のジムニーに積載している無線機で呼び掛けた。誰かが、どこかで、明太のこの声を聞いているかも知れないからである。
 明太は、微かな生命の一つでも良い、この通信を傍受して、生きる望みを見つけてくれればと念じた。

  一方、その兄、利見は『大宝丸』を操って、その母港、佐伯を目指していた。利見も、自分の慎重な性格を活かして慎重に、沖へは出ないようにしながら、比較的浅い航路を進んでいる。
 既に、宮崎の臼杵を出港してから、ひと月以上経過していたが、燃料は十分だ。食料は、利見も漁師だから、自分で獲る事も出来る。不思議な事に海上の、岸にほど近い所からは時々、仄かな灯が見えていたが、利見も言わば孤立状態で航行している。当然ながら、『大宝丸』の無線機には、誰からの通信も入らない。
 不思議な事に、小さな村や町では、都市部に較べて被害は少なく、生存者が避難し、協力し合って生きている事など、知る由も無かった。だが、明日、明後日には佐伯の港へ入る事が出来そうだった。佐伯には、母がいる。利見は母の生存を信じていた。

 
 突然この時空間に飛ばされたのは、海野だけでは無い。アメリカ東海上の日米同盟軍とて、この事態をまだ理解していなかった。自分たちが、元の時空間に存在しているものとばかり思いこんでいるのだ。
 異次元空間からやって来た日米艦隊は、時代こそ遅れた艦隊であったが、この世界の史実と違い、互いに同盟軍である。アメリカ合衆国東海岸のメトロポリスが廃墟と化し、巨大水棲生物の天下になっている事を、日米艦隊首脳は偵察機の報告で聞いていた。
 
 アメリカ海軍の、空母機動部隊を率いるハルゼイ中将は、親しい友人の、日本の連合艦隊司令長官、山本五十六大将に相談し、大都市部の怪物たちを、航空攻撃で焼き尽くす決断をしていた。
 この両艦隊を率いる猛将と智将とは、互いに酒盛りをし合う仲だったのである。別の時空から飛ばされて、この時空へと現れたこの日米両艦隊が、史実とは異なる背景を持つのは、寧ろ当然であろう。
 
 ところで、先に実施された日米共同作戦では、ボストン市街地に対する、戦艦による三式弾砲撃は、効果絶大だった。巨大なエビやカニはバーベキューになっている。同時に、航空機による焼夷弾の効果も大きく、更に大きな諸都市、ニューヨーク、シカゴ、フィラデルフィアにも、同じ作戦で効果がありそうだとの、偵察情報を受けて、山本とハルゼイが共同でこの作戦を実施する事になったのだ。




 日米双方の偵察機は、巨大生物の数が減り、生きた巨大生物が餌食に事欠いて、仲間の死骸を喰らう様子を報告した。
 山本もハルゼイも、共同で化け物どもに総攻撃をかける。作戦準備にはあと、二日あれば良い。
 
 艦隊首脳部には二日と言う時間が、とても長いものに感じられた。
 
 先だってこの艦隊の上空に現れた、大型航空機のパイロットは、無線通信でこう言っていた。(我々には、貴艦隊への補給、補充の用意あり。貴艦隊の通信は常に傍受しているからね)と。

 山本もハルゼイもこれを信じ、通信で大っぴらに、こう呼び掛け続けた。

 「ワレ、東部海岸諸都市ニ、総攻撃ヲ実施セントス。補給、補充ヲ求ム」 
 
 あの、不可解な大型機の所属先が、これを間違いなく傍受してくれればと、日米双方の司令官たちは願った。

 ハロッズはまた、多忙になった。内藤が無事に連邦政府の地下施設に到着し、先だっての新兵器供与に関して、米国政府として行った、言わば「日本外し」ともとられかねない結果に、ハロッズ自身の誠意を込めた言葉で、内藤に詫びる間もなく国防長官のバークレイ・グレイがこう報告してきたのである。

「大統領閣下。実は第二次世界大戦当時の大艦隊が、補給などの支援を要請しております。如何致しましょうか?」
「ああ、今度はそれか。あの、大昔の日米艦隊?君はどうやって補給物資をそこまで運ぶつもりだね?それが出来るのなら、君に一任するよ」
「はい、大統領閣下。お任せいただけるなら、ドラム缶での補給、並びに補充を検討しております」
「確実に届けてくれよ、バーク」
「はい、大統領。輸送機で低高度から、ドラム缶で補給物資を落とそうかと」
「艦隊で、それを拾うのだね?」
「はい、閣下。この作戦には前例もあります。じつは・・・」と、バークリーが言いかけたところで、ハロッズはそれを遮った。
「わかったよ、バーク。君に一任するから、宜しく頼む。だが君の事だからバーク、私の命令を待つまでも無く、既に準備をしているのだろう?」
 ハロッズは、この男の性格を知っている。バークなら、相談をする以前に先を読んでいるはずだと、ハロッズは分っていた。
「かしこまりました、大統領閣下」
(内藤首相も丁度良いタイミングでこの施設にいる。八十年も前の日米両艦隊が、あの山本とハルゼイが!共同作戦を実施すると知ったら、内藤首相はどんな顔をするだろう・・・。)

 命令は即座に、アメリカ中央軍司令部の、これもまた、地下施設へと伝達されて、日米の大艦隊に対する補給作戦は実施される事になる。

「ワレ、補給並ビニ補充ノ要アリ。至急連絡ヲ請ウ・・・」

「大先輩方から、応援要請ですよ。間もなく対応すると、無線で伝えましょうか?」
「いや待て。大昔の艦隊だろう?無電で伝えてくれ。モールスは覚えているか?」と通信長が冗談を飛ばした。
「忘れましたよ、とっくの昔にね!!」

「ワレ、貴艦隊へノ、補給作戦ヲ実施セントス。ドラム缶ハ、拾ヘルカ?」
 
 この無電の話を配下の参謀から伝え聞いて、ハルゼイは思った。

「ふざけた奴だ・・!」だが・・・。
 言いながらハルゼイの心は解れた。(やはりアメリカは存在していたな)


 中央軍司令部からの命令は、東部の諸都市に一番近いミネアポリス郊外、地下の基地へも同時に伝達されていた。
 また、補給に対する返電が来た事を受けて、ハルゼイ提督は山本五十六率いる連合艦隊と同時に、配下の艦隊司令らに、航空作戦の実施を下令した。

 ハルゼイのこの動きに同期して、山本五十六は第三艦隊の、南雲忠一海軍中将に対して、航空作戦の実施を下令し、自ら率いる第一艦隊を西進させるべく命令を下していた。

「いよいよだ!艦隊を西へ向けろ!」
 この、日米共同作戦の要は、巨大な戦艦群による三式弾の砲撃だ。その大威力の砲撃が、あと二日の間を置いて、実施される。

 南雲中将は、草鹿参謀長にこう、尋ねた。
「山本長官から航空作戦を督促してきたが、出来るかね?」
 草鹿参謀長が答えた。「はい!全く大丈夫です」

 南雲は頷いた。


 グレイの報告はこうだった。
「大統領!作戦は、実施されました」

 ハロッズは、知らせにこれを、早く内藤へも知らせたいと!厨房の担当者に執務室から電話で、直にこう言った。 

「済まないが、日本政府の内藤首相に、私から祝いの酒を届けてくれ。たのんだよ」
 
 言い終えてすぐ、ハロッズは内藤のいる来品質へと、駆けた。


 この時すでに、切れ者とあだ名された、国防長官、バークリー・グレイの命令で米航空艦隊は動き始めていた。
 同盟軍とは言え、手柄は争わなければ・・。




 
 ’イソロク・ヤマモトより先に、作戦行動に掛かれ!!
 米航空機動艦隊司令官たちは、現場で将兵を督励していた。
 ハルゼイも、航空甲板に出て将兵に怒鳴っていた!

「もたもたするなあ!イソロクを!!ぎゃふんと言わせなければ!俺が貴様らを!!踵で蹴っ飛ばしてやる!!いいか貴様ら!!」

 
 (続く)
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Last updated  2024/03/18 02:55:40 AM
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