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THE Zuisouroku

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2024/03/19
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カテゴリ:小説














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 山本や南雲に対し、これ見よがしに航空作戦を先行させるハルゼイ提督の動きは、山本の、日本第一艦隊や、南雲の第三艦隊からも良く見えていた。然し、慎重さが持ち味の南雲忠一は、ハルゼイ艦隊の動きを他所に、航空作戦の準備を丁寧に進めていた。それを見かねた参謀長の草鹿少将が南雲に尋ねた。

「長官、我々も作戦機を準備出来次第、順次出しましょうか?」
「そんなに急がなくても良いよ。相手は艦隊では無く、怪物たちだろう。逃げも隠れもしないのだからな。同じ航空艦隊として、ハルゼイ提督は、私を出し抜いたと思っているのだろう。そんな事は気にしなくて良いから、しっかりと準備をしてくれ」
 
 異次元からやって来た南雲と草鹿は、元の世界で敵国だった、ドイツ空軍機の奇襲を受け、大慌てに慌てた事があった。
 航空に詳しくない南雲より、草鹿の方が今と同じく、直ちに迎撃機を上げようと焦った隙を突いて、ドイツ空軍の大型爆撃機に艦を大破させられた。その時には、どっしりと落ち着いた南雲の指示により、命からがら艦と乗員の命を救われた経験があった。
 判断の素早さに定評のある草鹿には、その反面、危機に際して慌ててしまい、一挙に事を運ぼうとする悪い癖があるのを、南雲は知っていたのだ。

 一方、第一艦隊の旗艦『大和』にいる山本五十六の目には、ハルゼイが自分に対する競争意欲を、ここぞとばかりに見せつけたがっているのが見て取れた。山本は苦笑いをしながら言った。
「ハルゼイの奴。この私を出し抜け!とでも叫んでいるに違いないさ。𠮟咤激励どころか、すでに激怒しながらねえ。こういう時に、怖い男だよ。あいつは」
 
 山本も艦隊を西進させつつ、ハルゼイが航空甲板上で腕を振り上げ、将兵達を怒鳴りつけているのを双眼鏡で観ていたのだ。
 山本五十六は、そんなハルゼイに、ぷい~ぷい~っと!警笛を二声鳴らさせて『大和』のブリッジから敬礼を送った。

 自分を追い抜いて行く山本の艦隊を見て、ハルゼイも敬礼を返している。
「戦闘前のハルゼイは鬼だからね。俺はハルゼイの部下でなくって良かったと思うよ」山本は言った。

 日米両艦隊はアメリカ東部海岸沿いのメガロポリスと言われた大樋の廃墟に向けて、これから航空と戦艦の巨砲を以て総攻撃をかけるのだ。艦隊はそれぞれに作戦準備を整える。




 

「荒鷲、カニとエビを喰らわんばかりの勢いだ。だいぶん、点数を稼ぐ気だな、ハルゼイの奴は。俺達は俺達のペースで行こう」 
 山本も南雲も、至って平静にハルゼイの艦隊を見ていた。
                         
                        ☆ 
 
 少年としての人格を表した「般若」と、手力男とを連れたシヴァの一行は、古代インドの地で、釈迦の小集団を求めて歩いた。
 まだ、この時代には小さな、新しい思想的グループに過ぎないその足跡を求める事は、やはり容易な事では無かった。だがこの、いつ終わるのか知れない古代インドの旅を利用して、ユング心理学を専門とする神山は、少年の姿をした「般若」の観察をする良い機会を得た。
 神山の眼から見た「般若」は、まだ何も知らない純粋な少年であり、この時空を一元化するという、その意思だけを信念とした、頑固な人格を兼ね備えているように見えていた。
 「彼」には人類の持つkarmaを理解する事は出来ない。どこまでも混沌とした世界を忌み嫌う、まさしく人類の願いをそのまま人格化した姿があった。「彼」は、人類の願いを叶える事しか頭に無いのだ。
 こんな少年を見て神山は、底知れぬ怖さを感じ、出来るだけこの少年に、人の醜さを見せぬようにと心を配った。
 この純粋で頑固な少年は、人類の持つ矛盾に敵意を持っていた。憎しんでいたと言う方が良いかも知れない。幸福を願う反面で、他者への妬みや憎しみという感情をも同時に有し、殺し合い、殺人を正当化しながら戦争をする、人類の心理作用を「彼」はまだ、理解しないのである。
 穢れの無い世界だけが、彼の実現すべき世界なのだ。人類の祈りはこの様にして「彼」を産んだのであった。
 神山はこの少年に一刻も早く、釈迦との邂逅を果たさせたかった。神山が抱く、「彼」に対する底知れない怖さとは、この少年が持つその力である。世界を破滅させ得るまでの、その一元化への義感・・・。 これに対して神山は怖れを抱き、悩んだ。
 
 シヴァは世界の一元化をしようとする少年の意志を、いざとなれば止める事が出来る。が、それは、同時に、世界をシヴァ本来の力で破壊させる事なのである。その結果は、高次の神の次元のみが残り、他は滅ぶ。何もかもを亡ぼし、また再生させるのは然し、シヴァ神の本意ではない。何とかそれを防ぐのが、シヴァ神の願いであった。
 シヴァ神には、神山の内心を手に取るように分かっていた。神山の力になるために、シヴァ神は手立てを講じようとしているのだ。



 「人類が為した業は、人類で刈り取らねばならぬ。儂が代わってそれを刈り取れば、人類の業を儂が、盗み取った事となろう。良くも悪くも自分のkarmaは自分で刈り取り、収穫せねばならぬのだから・・」
 シヴァ神は優しく神山の肩に手を置いた。
「神山よ。刈り取った結果がどうあろうとも、自分でそれを、収穫としなければ」
 神山は静かに頷きながら言った。
「あの少年に、見せてはいけないものが、多すぎて・・・」
 神山は、重くなっていたその口を開いた。
「あの少年には、理解をしなければならぬ事がある。いずれそれを学ばねばならぬだろうな」
と、シヴァ神は言った。
「学ぶとは言え、あの少年が耐えかねて、また暴れたら・・」
「そのために、お前達を連れて来たのではないか、神山よ。手力男も、よく学んだでは無いか。以前はただの、荒くれた武神であった、手力男に出来たのじゃ、あの少年にも出来ようぞ」
「では、学ばせるために私たちを?」
「そうじゃ。お前達のそれが、役目なのだから」
 神山には、シヴァ神の言う事が理不尽に聞こえた。そのような大役をどうして我々に、と。
 然し、シヴァ神はそれには口をつぐんだ。



「黙示録の結末を、思い出せるかい、キャシー?」
 ハロッズはまた、聖書を手にキャシー・アーネストに聞いた。
「いいえ、大統領。ローマ法王でさえそれを口になさらないとか。私にはとても想像が出来ません」
「私もだよ。聖書を読むのが恐ろしい・・・」
「神はお見捨てには、なりませんわ!大統領閣下」
「何故、私の時にと、思うね。こんな恐ろしい世界を、神は何故?」
 ハロッズには、こみ上げるものがあった。彼には、聖書を手放せない日々が続いていたのだ。
 いずれ、この時は来たはずですと、言いかけてアーネストは言葉を呑んだ。そして、逆の言葉を掛けた。アーネストはこういう時に常に、ハロッズの思考を読み、寄り添った。
「事態は収束しますわ、大統領閣下」
「私には、楽観出来ないね。これまでがそうだったように、また何か、おかしなことが起きるのではと。何故私の時にばかり・・・」
 ハロッズは聖書の項を捲る手を、『黙示録』のところで止た。然しハロッズは、それを読まずに聖書を閉じるのだった。
 ハロッズは、禄に食事も摂れぬ日々が続いていた。事態の余りの深刻さに、食事の事など忘れていたのだった。コーヒーをマグカップで飲む他には、デスクに置かれたクッキーの皿の上のもの以外には、何も食べていなかった。
 顔を洗うのさえ忘れているハロッズの顔に、無精ひげが浮いている。
「何か召し上がりませんと、大統領。ダイニングへ行くだけでも行かれて見ては?」キャシーが優しく言った。
                        ☆

 山本直卒の日本第一艦隊は、座礁しない距離まで、出来る限り陸の近くにと、難しい航行を試みていた。その巨砲の威力を、可能な限り内陸にまで送り届ける事が出来るように、慎重に目的海域まで接近するのだ。
「航海士!しっかり頼む!」山本は航海士を叱咤し、双眼鏡で前方を見ている。
 明るい内に、目標海域に到達しなければならない。間を置いて、再び巨大生物の数が増えては元も子もない。山本の心には、慎重に事を運ぶ事だけでなく、確実にそれを達成せねばならないという決意があるのだ。砲弾にも限りがある。
 あの大きな米国籍らしき航空機は、ほんとうに我々を助けてくれるのか、確信は無かった。この一回が決戦なのだ。しくじりは許されない・・・。

 (続く)

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Last updated  2024/03/19 07:45:11 PM
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