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THE Zuisouroku

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2024/03/24
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カテゴリ:小説















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 神山どころかシヴァ神さえも、気が付かぬ一瞬の出来事であった。
 シヴァ神が与えた、少年の姿をしていた「彼」の怒髪は天を突き、憤怒の表情となった。
 あたかもそれは、ギリシャ神話に出てくるゴルゴンと見紛う姿へと変化し、その空間はたちまちにして歪んでしまった。
 般若の機械的な一元化への意思が、強烈な怒りと共に時空間を超えて作用してしまったのだ。

 同時にその場から少年「般若」の姿は掻き消えた。

 シヴァ神ち神山らの一行は、元居た古代インドの空間から弾き飛ばされて別次元へと移動していたが、あまりの衝撃に皆、気を失ったままだ。いつもならシヴァ神が張っている光のシールドも、少年に姿に変わった「般若」に安心してそれを張っていなかった。
 シールドの保護の無い神山たちは大丈夫なのだろうか?その答えも、今はシヴァ神次第であった。皆はただ、その異空間に漂うしかない・・・。


 山本五十六はその旗艦『大和』のブリッジから中甲板に出て、双眼鏡を覗いている。
 ハルゼイ提督が探しているアメリカ機動部隊の二個飛行大隊を、山本の率いる三つの艦隊も必死で探しているのだ。南雲機動部隊からも稼働できる全ての航空機を捜索に投入し、全力で米航空隊の行方を捜索している。

「捜索を始めてから、丸一日だ、もうすぐ日が暮れる。これは、万が一と言う事を考慮せねばならないね。夜が明けるまでは捜索の規模も小さくせねばならないし・・。」と、南雲が言うと、草鹿参謀長もそれに答えた。
「はい。夜間行動可能な航空機となると『彩雲』三十機たらず。捜索範囲が縮小されるのは止むを得ませんね。その他の航空機を夜間行動に出すのは危険です。出せたとしても艦爆ですが、捜索には無理がありますし」



 艦隊が頼りにしていたその陽光も、既に西の水平線へと消えた。海上には星影以外明かりは無い。艦隊から西に見えるはずの、天空を照らしていた大都市の明かりも、今は無い。
 南雲機動部隊の艦船も広く円陣を組み、サーチライトで海上を照らしている。『赤城』のブリッジからは、第一、第二艦隊のサーチライトも判然と見えている。捜索は徹夜で行われるだろう。航空隊二つが、突然その消息を絶ったのである。その元居た方角を中心に広がって探すが、手掛かりどころか、二個飛行大隊の破片ひとつ無いのだ。




 先刻の話に憤怒の形相と化した「般若」は、時空を歪め、捩じった。
 時空の「一元化」をのみ自分の使命と信じたこの存在は今、角を生やし、恐ろし気な眼をぐっと見開く般若の面そっくりの姿に変わり果てていた。「彼」にはもはや、物質的存在の中で唯一自分を信じてくれた、愛すべき「コロ」の心の優しさも眼中になかった。
 
 やはり人間の祈りは実現されねばならないと、「彼」は行動に出たのだ。「彼」は、真理(dharma)をさえも欲得の対象にする「悪業」を、許すわけにはいかないのだった。人間存在は、「彼」の眼には今や滅せられるべき「悪」の根源そのものにしか映らなかった。時空を一つにして、自我が生じさせる区別を無くしてしまえば因果律も無効になり、悪はそもそも生じないはずであると言う信念だけが「彼」を突き動かすのだった。
 「彼」は布状に幾重にも重なる時空間をまとめて握りしめ、捩じり上げていた。結果その捩じられた時空間は、限りなくその区分けを失い接近接合されている。この時空にもその影響が及ぼされているのだ。
 異なる時空にあるべき存在が、この世界に姿を現し、同時にこの時空にあった存在が異次元へと飛ばされていた。世界は再び混沌を極めるものとなる・・。
 因果律は効果を失い、時空間の境界が消えた所から既にその作用は及んでいるのだった。神の目から見たとしたらそれは、巨大な存在が時空の端を重ねて、雑巾のように絞っている姿に見えただろう。般若はその握りしめた布を、ますます強く絞り捩じり上げる・・・。

                       ☆

 シエラネバダ山脈の麓、山岳の腹を深く掘った地下に、アメリカ合衆国連邦政府の施設はあった。
 ウイリアム・ハロッズ大統領はその施設の執務室で、アメリカ合衆国の東部沖合にある、古典的な謎の日米大艦隊に対する、補給作戦の進行具合の報告を受けている最中だった。

「どうやって空輸するのか決めたか_?」と、ハロッズが国防長官のグレイに質問した途端だった。地下深くにあるこの執務室が、小刻みに振動しはじめた。天井からは砂誇りが落ちてくる。
「何事だ一体・・・!こんな地下深くで」
 大統領執務室の大きなデスクに置いてある、ハロッズの私物や写真の入った額が音を立てて倒れ、またデスクから零れ落ちている。振動はさらに強さを増していく。
 
 同じ施設の貴賓室では、日本亡命政府の首班、内藤尋が荻野と一緒に、ウイスキーのグラスを傾けている。今は貴重品となっている、バーボンウイスキーの香りに気分も解れ始めた時に、その振動が襲った。
 内藤と荻野はソファーに腰を下ろしたまま、その場に凍り付いた。グラスを持った手にはウイスキーが波を立てている。その中身がグラスからこぼれる程の
振動となって、何度も繰り返されている。二人はグラスをテーブルに置いて慌ててソファーのひじ掛けを掴み、両足を踏ん張った。
 地下深くの施設がこのように強く振動するのは危険である。この施設は巨大地震にも十分に耐えるだけの強度を持つ、耐震、免振構造になっている。連邦政府の入っているこの部分は、特に耐久性を強めた構造だが、それがこれほど強く揺れるのはただ事では無かった。

「またか!驚かんぞ俺は!!」と、内藤がその心の中とは正反対の事を言った。
「私もです!もう、何があったって!!」と、荻野もいう。

 こんな地下深くでどうしろと言うのだ、と言う考えがほぼ同時に、この施設にいる誰の脳裏にも起きた。
 どう対処しても、脱出などは不可能だ。ただこの振動が収まるのを、凝と待つしか無いではないか。

「私は運の良い男だよ!皆も運が良いな!!」ハロッズが訳も分からずにこう、言っている。
「ええ!大統領!!我々は全員、強運の持ち主です!」誰ともなくこう叫んでいるのが聞こえた。
「アメリカ合衆国の大統領だぞ!!」
「我々も運が良い!!」

 皆が自分の強運を口々に叫ぶうちに、次第に揺れは小さくなっていく。壁や天井には、どうやらひびなども入ってはいなかった。棚には穂煮貝の私物が無く、それに大きな変化はない。デスクの上にあった置物や額が落ちた程度で被害らしい被害は無かった。
 異変に次ぐ異次。執務室もこれには冗談を言い合うか叫ぶしかほかに、手立てなどあるわけがない。

 そこへ内藤と荻野がノックもそこそこに飛び込んで来た。
「みなさん!大丈夫でしたか!」
「内藤さん!あなたこそご無事で!荻野さんも!!」
 と、ハロッズ始め、そこに居合わせた全員が口々に言った。
「地上はともかく、海上のあの旧式海軍が気掛かりです。すぐに連絡をさせます」
グレイが言うとすぐに執務室から通信室へ向かっていく。
「地上の心配をしても始まりません。もう、誰もいないと想定しませんと」と、国務長官のキャシー・アーネストが言う。
「他の施設が無事かどうかも、合わせて確認させてほしい」
「はい!大統領閣下」アーネストが執務室の補佐官に目で合図を送ると、ハルが頷いて通信室へ電話でその旨を伝えている。
「地下数百メートルのこの施設であの大きな振動でしたから、津波などで、あの旧式の艦隊に被害が出ないとも限りません」ハロッズが内藤らに向けて行った。
「東部の補給基地が、被害を受けた模様です、大統領。今の大地震は全米の規模で起きており、どの施設からも大小の被害を出していると、報告がきています。残念ながら、補給作戦は暫く延期せねば・・・」と、
今度は国防長官のグレイが駆け込んできて言った。
「艦隊に連絡はついたかね?取りあえずは無事が書くにされて何よりだ」と、ハロッズがここでようやく一息入れると、滅多には吸わない葉巻に火をつけた。コーヒーもすぐには飲めそうにないからだ。
「飛行隊が消息を絶ったままだという報せも受けております。救援を依頼しておりますがどういたしましょう?」と、グレイが聞いた。
「捜索機を出せるのなら出したらよい。給油機もあるならつけてやれ」ハロッズが言った。
「何はともあれ、謎めいているとは言え、艦隊の無事は確認できました。津波への警戒をするよう、言っておきましたが、彼らにそれが理解できるかどうか・・」
「そこまでは面倒を見切れないよ、艦隊側でやってくれなくちゃ」と、ハロッズはここで葉巻をふかした。




 異次元で時空を捩じり上げている「般若」の心には、涅槃寂静と言う事しかない。人類の悪業をすべて消滅させるには、人類を清らかな状態にすれば良いのだという声がしていた。
『般若」はその意味を考えた。遠い過去に誰かがその様な事を希い、自身の脳裏にそれを刻み込んだのだと「般若」は思った。それを自分の心に刻み込んだものが何か?誰なのかはわからないが「彼」には本能的にそれが浮かぶのだった。
 書物にすれば、何項にも及ぶその中身は、仏典の上で考えられた、人が清浄になっていくとされた過程であった。仏典が説く涅槃寂静の概念もまた、その思想集団の経済策と言う、人の欲望から生じたものである事を「彼」は知らない。厭離穢土を専ら理想とする世界観からのみ描かれ、物質的な世界を忌み嫌うこの思想は行き着く所、死を意味する。死にゆく人の姿を繰り返し観察し、死体の様子を細かに分析して描かれた、仏典上の想像の世界。それを理想化する概念が、人格を得てしまったのだ。
 欲望が全て消滅した世界。自他の区別が消えた世界。「般若」の脳裏にそれが克明に刻まれていた。
「彼」は今、人類をその理想の状態にすべく、時空を思いきり捩じり上げた。

 (続く)


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Last updated  2024/03/24 11:26:38 PM
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