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THE Zuisouroku

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2024/03/22
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カテゴリ:小説













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 山本は南雲の航空艦隊が一旦空母へ帰投して行くのを双眼鏡で見ていた。
 大編隊の轟音が響いている。
 
 空を覆うその大編隊の陰が海上を影らせている中の、最後の攻撃機隊がバンクを送っている。
 日本機隊は全て通過した。間もなくだ、と山本は双眼鏡を手にしたまま、更に待った。
 米艦載機がまだ帰ってこない。砲撃開始は最期の米攻撃機隊が帰投して行くのを確認してからでなければと、山本は更に待っているのだった。



 今回は日本機隊が攻撃を終えた後、それに続いて攻撃に参加した、ハルゼイ機動部隊機が間もなく上空を通過して行くだろう、それを待っていよいよ、その主砲でニューヨークの巨大生物に止めを刺す。
 今日はこれを、少なくとも三度以上繰り返す事になるだろう。
 最終決戦と位置付けられた作戦だ。メガロポリスを破壊し尽くした巨大生物たちを焼き殺して、その仇を討たねばならない。
 
 ハルゼイ座上の米空母『レキシントン』では通信班が、返って来るはずの攻撃隊へ向けて盛んに打電していた。が、出撃した二つの飛行大隊からは、一つの返電も無かった。無電機の故障を疑った通信長は早急に点検させていた。然し、通信機には何の故障も無かったのである。
 通信班員達は再び盛んに飛行隊に向け、「帰投予定時刻報セヨ」と、打電している。飛行大隊二つが二つとも、何の返電も打たない筈が無い。通信長は自分でこの異常を、ハルゼイへ報告しに走った。
 
「長官。ハルゼイ機動部隊が電波を出していますが、その内容が変です。なにか、攻撃機隊に異変があったようです」通信参謀が山本のところへ報告に来た。
「位置や帰投時刻を知らせろと、盛んに電波で探している様子ですが、攻撃機からは何の返事もありません」
 山本は「いやあな」予感がした。こんどの異変では何度もこの、「いやあな」予感に背筋が凍る思いをさせられているのだ。何事も無ければハルゼイ機動部隊機が、全て無言でいるはずは無く、何らかの電波で自分達の報告をして来るのが常だ。電波が出ていないとなると・・・。
「砲撃を延期する。大丈夫なのかどうか、ハルゼイへ打電してくれ。砲撃の延期するからとね」
「はい!」通信参謀は言うとすぐに踵を返した。
 山本は再び三度、双眼鏡を前方へ向けた。航空隊は影も無い。
「南雲超過により入電です。航空機は全て、無事、帰投しました」ハルゼイ部隊とは対照的な報告が、山本にもたらされた。
 山本は然し、ハルゼイを慮り、無言で頷くのみだ。米攻撃隊が何事も無く帰って来れば良いのだが、巨大生物がまた、その勢いを盛り返しているのだろうか?
 いくつかの複雑な思いが胸を過ぎり、山本は椅子に腰を降ろすと、腕組みをして考え込んだ。
 ハルゼイから返電が来たら、米攻撃隊の帰りを待たず、砲撃を開始すべきか。それともハルゼイは砲撃を待って欲しいのか?山本はそれを、ハルゼイへ問い合わせるように頼んで、返電を待った。
 ハルゼイもかなり混乱しているはずである、そう簡単には返事をくれないだろう。砲撃を強行する事は慎まなければなるまい、と山本は友人ハルゼイの胸中を思い、自分も米飛行隊の無事を念じるのだった。



 古代インドの荒野を行くシヴァ神らの一行は、数日ぶりに漸く一人の人影を見付けた。然し期待はしない、その人影は思想家の集団では無く、放牧をする牛飼いの男だ。神山はこの牛飼いに、釈迦の足跡を聞くだけは聞いてみる事にして、こう言った。
「こんにちは。あなたはこの牛たちを世話しておられるのですか?」
「やあ、こんにちは。その通りですよ、この牛は全て私が世話をしております。何かお尋ねになりたい事でも?」と、牛飼いの男は言った。

「のどかで良い日よりですね。私もここで暫くのんびりさせて頂きます。それで、この辺りには思想的な指導者のグループがありますか?この辺りに滞在しているとか、もし何かご存じなら教えてください」

「思想家のグループですか?はあ、たまに見かけますが、皆、どの集団も、長くて二月ほど滞在したら、どこぞへ行ってしまうので、今どんな集団がいるのか、分かりませんなあ、見かけませんから」

「釈迦と名乗る人の集団が、この辺りに滞留した事はありませんか?」

「釈迦?はあ、分かりませんねえ。どれも皆、あのような人達の集まりは変わっておりまして。私は見かけはするが話したりしたことはありませんからなあ。いろんな変人が集まって、がやがやして、そして過ぎ去りますのでなあ」牛飼いが答えた。

「そうですか、色んな集団がおりますか。似通っているとおっしゃいましたが。どんな事を言っているか聞いてはいませんか?」
「話をして分る様な人達ではありませんからなあ、なにせ変わった事ばかり言いますし、すること為す事が奇妙で、変なのですから。そうそう!忘れておりましたが、話にきいておりましたわ。今日か明日あたり、そういう人たちの集まりが此処へ来るそうです!あのような人達の集まりを見るなら、良い所へ来られた!ここで逗留すると言って、貴方もこの叢では獣に喰われてしまうでのう、何でしたら私の家にご逗留なさい。そうして、そろそろやって来る集団をご覧になれば良い」牛飼いの男は気軽に神山らを、自分の家へ逗留させてくれると言うのだ。神山には渡りに船だった。
「そうですか!では、お言葉に甘えて。お世話になります!」
 即座に神山らは、好意に甘えることにした。何一つ分からないこの世界で、初めての知己を得た気がした。シヴァ神も老賢人に化けている。神も神山らと共に、牛飼いの家で世話になるのだ。
コロと「少年」は、一番後ろから皆についていた。
 牛飼いは帰宅するにはまだ早いからと言い、皆にロバを勧めた。大人しいロバが数頭、牛飼に連れられて群れの中にいた。神山たちは、その温和なロバの背中に乗るのはさておき、牛飼いの男と車座になって叢に腰を降ろした。

「先ほど貴方は、思想家の集団が変わった人たちだ、とおっしゃいましたが、思想家のグループは変人なのですか?私どもはご覧の通り、異国の者で、この国の思想家の集団と言うものを見た事が無いものですから」と、神山が水を向けると、牛飼いの男は、それはそうだよと言わぬばかりにこう言うのである。

「だってあの人たちは家を持たず、我々の様な、土地の者からの布施で生計を立てていましてねえ、それを受けるのは良いが、布施を受けても礼の言葉も無く、むしろそれで当たり前だよと、言う様な態度で。威張っておりましてなあ。我ら土地の者を『お前達には真理(dharma)が分からぬ』と言ってバカにしておるのですよ。
あの人たちは『おまえらの身代わりになって、苦行の生活をするのだから真理(dharma)に疎い、お前達が我らを支えて当たり前なのだ』と言うのです。良い気分ではございませんなあ」

「威張っている?喜捨を受けてですか?感謝はしないのですか?」神山も戸惑った。
「感謝どころか貴方、苦行と称して滑稽な格好をして見せて、それでまたお金を要求するのはまだ良い方で、酷いのになると、でたらめな占いで人々を困惑させてみたり、真理(dharma)のお告げと称して住民を惑乱させたりと、それはもう、奇行が過ぎまして。住人は皆、思想家の集団が来ると出来るだけ当たらず触らずの姿勢で接して出来るだけ早く、この地から去ってもらえるようにと、祈る始末なのです。苦行は見世物同然。喜捨を貯め込み、お告げや占いで余計に困らされて来ましたので」

「彼らには、苦行が見世物になっているのですか?占いやお告げで、お金を求めて来る?」神山が聞いた。
「はい。舌ベロに木の板をはめ込んで見せたり、岩の上で寝ている所を見世物にしてお金を要求されますので」
「それは凄い事になっているんですねえ!」神山はもっとよく事情を知りたくて、さらに水を向ける。
「住人たちの喜捨で、彼らはお金持ちの部類なのです。我らはそれでも喜捨をせねばならず、彼らの求めに応じて、僅かなお金でも出さぬわけには参りませぬで、誠に困ったものなのですよ」心から困った顔で、牛飼いは言うのであった。
 「他の集団と行き会ったりした時には、もう、論争はするはそれが昂じて喧嘩沙汰。今回はその様な事だけは無ければ良いのですが」牛飼いは、ため息交じりに話すのだった。

 神山にして見れば、古代インドの思想家たちが率いる苦行者の集団には、清らかなイメージを抱いていただけに、現実の話を聞くにつけ、一層幻滅するのである。
 現実は、余りに現代と変わらないでは無いか。
 傍らでそれを聞いている青年もまた、神山と同じ驚きと憤りを感じながら一言こう、言った。
「現代も同じですねえ。人間は変わってないんだなあ!」

「真理(dharma)を利用して、苦行でお金儲けだなんて!」青年が少し大きな声で言った。
「人間の魂が、ブラフマン(brahma)と言うのに帰って行くには、あのような奇天烈なことをして見せて、我々の様な各地の住人たちを困らせなければ、そこへ行き着けないものなのでしょうかな?私だけで無く皆、呆れて見ているしかないので」牛飼いは言葉を重ねる。
「まあ、我ら牛飼いは、移動しながら放牧をしますので隣村の者から今日、明日中には、その様な者たちがまた、やって来ると聞いておりますから。あなた方は異国の方々とおっしゃったが、珍しいものでも見る気で、見て行かれると良いですな」

 余りに想像した事とは違う。神山は驚きや呆れた気分で他の皆と顔を見合せた。その時に、般若が少年と化した「彼」もまた皆と共に、それを聞いてしまったのだった。
 
 それはたちまちの内に起きた。神山が「あっ!!」と思った瞬間、少年の顔が醜く歪み、絶望感や怒り、憤りの入り混じった、何とも表現しようの無い表情になった。最早その顔は、純粋な少年のものでは無い。
 「彼」は怒髪天を突くとは、この事だと言う程に髪の毛を逆立てた。同時にその場の空気が急に冷え込み、空間が歪んだのを皆は感じ、同時に気を失った。この大きな、そして急激な「彼」の変化には、さすがのシヴァ神も、どうにも出来ない急激な変化なのであった。




 米機動部隊旗艦『レキシントン』のハルゼイは我に返って、自分の指揮下にある航空機隊二個大隊が、連絡を絶ったのを日本艦隊の、山本五十六へ一刻も早く報せねばと思った。
 ハルゼイは、作戦を一時中止してくれるようにと、山本に宛てて打電するように命じると、航空大隊の捜索を下令した。

 『レキシントン』始め、指揮下の空母『ヨークタウン』『ワスプ』『エンタープライズ』の攻撃機が全て、行方知れずなのである、ただ事では無かった。
 ハルゼイはがっくりと両の肩を落とし、よろめく様に椅子に座り込んだ。

 ハルゼイからの無電で山本も、その友人がどれほど気持ちを落としているか、よくわかった。あの猛将ハルゼイ提督にして、この様な電報を打って寄こす事態なのだ。山本は、第三艦隊の南雲へ作戦中止と米軍機の捜索を打電させ、自らも捜索の指揮を執った。

 山本の「いやあな」予感が的中した。
 ただでは済まない事になるかも知れないな、と山本は改めて腹を据えるのだった。



 山本の命令を受けて第三艦隊の司令官、南雲忠一は米軍機捜索のために稼働可能な、全ての航空機を発艦させた。

「ハルゼイ提督、いま、どんなに気落ちしているか想像がつかないなあ・・。ああいう性格だからさぞかし、ねえ草鹿君・・。」
「まったくです!まさかこんな事態になるとは。何があったのでしょう?」

 南雲も草鹿も、『赤城』の艦橋で、このあと暫く何も言葉が出なかった。


 (続く)

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Last updated  2024/03/22 07:25:15 PM
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