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THE Zuisouroku

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2024/03/30
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カテゴリ:小説











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 ホッジ中佐は絶望した。
「貴殿ノイタズラ二、ワレ関セズ」と言う、アメリカ太平洋艦隊司令部からの返電を受けたのである。

 人間の「性」としての祈りと言うものがあったら、ホッジは反射的に神に祈っただろう。だが、彼は祈りよりも先に「まさか!!」と衝撃を受けて、頭に冷気が差した。背筋に走るべき冷気が頭脳に走って、その後彼の頭が痺れた。結果、祈りが人間の「性」では無い事が知れた。
 残酷にもホッジや、その部下たちの、これまでに幾度も繰り返したその祈りは、通じなかったのである。

 人として生を授けて『既に救ったものを、どうして再び救わなければならないのか?』神がいるならば、こう言って澄ましてしるだろう。
 神は見ているだけなのでは無い。一たび救ってやった者を、更に救う心算が無いのだ。見ているだけの方がまだ、マシというものだ。
 さて、この後ホッジ中佐はどうするのだろうか?
 それは、「神でさえ、知らない事」なのである。

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「たける殿、あの者がまたこちらに会釈をしておりまするぞ。ひょうきんな者でござるなあ」
この松野原村を管轄する公儀の目付、伊藤平左衛門が、向こうの時空にいる魚の進化系の、モロを見ながら自分も右手を挙げてそれを振って見せた。

「見ておられよ、平左殿。あの者はおそらくこれからこちらの世界へやって参りますぞ」
 海野は既にモロが好奇の心から、魚が水面に跳躍して見せるあの瞬間の様に、時空を飛び越えて、いよいよこちらの世界にやってくるのを、その仕種から予測した。
 モロはいつに似ずこちらの時空にずうっと接近し、辺りをそれとなく窺って、その時を狙っているかに見えていたのだ。
「こちらに来ますぞ。平左殿、雪斎殿、あの者がこちらに参ったら歓迎をして見せるのです。それを向こうの世界の人たちに、よく見て取れますように、少々大袈裟な素振りをして頂きたいのです」
 海野は海野で、モロが来た時にあちらの人たちがそれを見て、一切の心配をする事の無い様にと、策を考えていたのだった。そうして海野はモロに手招きをして見せている。

 海野らの様子から、モロは決心した。
 あの様子なら今、自分があちらの世界へ飛びこんだとしても大丈夫な様だ。あの三人はずっと見ていた様子からして、自分に敵意を抱く相手では無い。それに、目立たぬ仕草で私を手招きしてくれているでは無いか。
 行くとしたら今しかあるまい・・・。

「人の気配が無くなったら、来ますぞ。そうしたらすぐに我らであの者を護るように出迎えましょう」
「分かり申した。雪斎殿も、宜しいですな」
「心得ました」
 と、三人が床几から静かに立ち上がって、さりげなく向こうの時空の境目へゆっくりと歩み寄って行った。海野はモロをその仕種で招く。

 さりげなくあたりに悟られない様に…。モロもごく自然な歩みで境界まで近付くとそれを超えた。

「海野は伊藤平左に、自然な仕草でモロの背後を守ってくれる様に合図し、自分は向こうの世界に自分の笑顔や歓迎の仕草が良く見える様に、わざと仕草振る舞いを大きくして見せた。雪斎もそれに合わせる。向こうの人たちはモロが境界を超えた事に気が付いていない。

 モロは、魚の進化系で人間になった生物だ。彼が丁寧な仕草で敬意を表すと、海野たちも、それに最高の敬意と歓迎の仕草で応じて見せている。モロはついに「魚の大いなる跳躍」で、時空を超えたのだ。
 自分を守るように接してくれている三人の人物の親切な対応にモロは漸く心の緊張を解いた。
 
 どんな知的生物も、その歓迎の表情や、礼節の仕草は似た様なものであるのが幸いし、彼らの初めての意思疎通は上手く行った。
 向こうの世界からは、数人の、モロと同じ進化系の人たちがこの様子を静かに見守っているが、モロを取り返しに来るような者はいない。
 海野たちにそのまま導かれてモロは、彼らに笑顔でコンタクトをている。海野らによってモロは始めて見る、こちらの世界に目を向けながら、江戸中期の松野原村の、どこか心を和ませる杉並木や、漁師の家々、陸上げされている漁師たちの小舟の中を歩き、やがて公儀の仮屋敷に招き入れられた。

「よくいらっしゃいました。こちらへ参るにはさぞかし、勇気が要りましたでしょう。我ら三人、この松野原村の者を代表して、貴殿を歓迎いたします。さあ、ゆるりとなされよ」
 海野や医師の雪斎、目付の平左のにこやかな表情、柔らかな物腰にモロはすっかり安堵した。
 三人はモロを屋敷の裏庭へ通し、見事な桜の古木が見える縁側に腰を降ろした。雪斎と平左が持っロの相手をしている。海野は早速準備の『翁屋』自慢の饅頭を大皿に盛り、ほうじ茶の入った鉄瓶に茶道具などを載せた大きな丸木盆を持って、モロを歓迎する。
 香ばしいほうじ茶に、山に盛られた饅頭を海野が勧めると、自分もそれを割って食べて見せている。
 モロのいる魚の進化系人類の世界にも、菓子やお茶がある。モロはこちらの人間が勧めてくれたそのほうじ茶がすっかり気に入った。自分たちの世界の御茶よりも美味しいでは無いか!そうしてこのふっくらとした菓子の中味もよく炊けている小豆がほっこりとして自然な甘みが素晴らしい。

 もろのこうした様子に海野や平左、雪斎たちも安心し、散り初めた桜の古木などを見て、通じぬまでもその花を見せている。
 夜には伊藤平左衛門や雪斎の持参した酒も交えて、宴を準備していた。
 初めて見るこちらの世界は、木造の家屋敷が心に馴染み、優しい。
 そうして、頻りに自分たちの名前を伝えようとする三人の人の好い人物は、こちらの世界の友人となってくれるだろうと、モロも懸命に自分の名を三人に伝えようと努力した。
 
 こうしてモロは、異次元空間からやって来た、最初の友人となったのである。

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  さて、川島海将率いる小規模の水上艦隊三隻はいま、漸くクエートの港へ入港が許可された。
 艦隊は、先行させていた五隻の潜水艦隊に続いて入港した。
 水上艦の乗員たちは、待ちわびた陸の感触に触れ、自分たちが確かに生きているのだと言う実感に浸っていた。
 砂漠の国クエートは、他の中東諸国と同じく、巨大生物から被った被害が、他の地域に較べて比較的少なかった。
 水棲生物の少ない中東諸国では、巨大化した生物と言ってもサソリぐらいのもので、人もその狂暴な巨大サソリから逃がれさえすば、生存の可能性が高かったのである。
 中東へ逃れる事が出来れば、そこで給油を受けられるよう、日本亡命政権の首班、内藤尋がクエート政府と交渉してくれたお陰で、川島ら艦隊の幹部はクエート政府から意外な歓迎を受けた。

 これまでの悪夢が嘘だったかと思わせられる程に、クエートはその気になればまだ、人が住める街と言う様相を呈していた。巨大サソリが砂漠で共食いを始めている今、それとは対照的に、港は静かに艦隊を休ませている。
 手空きの乗員が整列する中を、艦隊司令の川島海将はクエート政府の出迎えを受けた。
 川島海将に対してクエート政府は栄誉礼で迎えてくれた。この予想もしていなかった歓迎に、川島海将は困惑さえ感じていた。
 川島にとって生れてはじめての栄誉礼である。それも、世界的な大異変の中で、各国艦隊が沈み行く中をベトナムから逃れ出て、辿り着いた先が自分を栄誉礼で迎えてくれると言うのだ。これは、川島には生涯忘れ得ぬ想い出となる大事であろう。式典が始まるまでの僅かな空きを時間を川島は、緊張感を抑制するのに精いっぱいであった。これはいわば戦時の司令官として受ける、最高の栄誉礼なのだ。


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 礼砲轟く中を川島と、旗艦『もがみ』艦長の橋本一等海佐がクエート海軍幹部と政府関係者に先導されてゆっくりと歩いて行く。
 そして定位置に止まったことろで両国の国歌が演奏され、儀仗兵がその指揮刀を払い、再び捧げ持つ。こうして川島は栄誉礼を受けるのであった。
 感激や感慨に浸れるのは、この式典を終えて、川島が政府の用意した送迎車の、後部座席に落ち着いて暫く後からの事である。それまでは緊張感で、他の事を思う余裕は無い。

 川島の艦隊は、人類存亡の危機の中、戦場での対潜水艦作戦を経験し、その後も幾多の困難や混乱の連続であった。
 然し今、川島とその艦隊の乗員は、このようにして報われたのである。
 出迎えてくれたクエート政府の代表は車の中で、この大異変の中、無事艦隊を率いてやって来た川島海将を心から労った。

 心のこもったこの労いの言葉で川島は漸く緊張から解放され、人心地を取り戻す事が出来た。
 生涯で初めての経験ばかりだった川島はここでやっと肩の力が抜けたのであった。

                        ☆

 日本亡命政府首班の内藤尋は、ようやくハロッズと、政治家としてだけでは無く友人としても、その積もる話をする機会に恵まれた。内藤にして見れば日本の状態から、今更レーザーや新型のミサイルを供与してもらっても、それを製造できる軍需工場は無いし、空自も陸自も壊滅に近いのだ。ハロッズが気になっていたこの問題は解決したも同じだった。日本への技術供与や新兵器の提供は、土台無理なのを内藤はよく説明した。
「それよりも日本の生き残った人たちの退避をさせて頂けたら有難いのですが、今後も何が起きるか計り知れませんし、都市には人間が一人も住める状態でも無く、人口の幾分かでも助けて頂けたら・・・」と、内藤は両手を合わせて、ハロッズを拝んだ。

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「勿論協力をします。我々の潜水艦部隊は、ほぼすべてが生き残っています。日本の潜水艦隊と一緒に作戦行動が可能でしょう。出来る限りの事はします」
「シェルターの必要性には気が付いておりましたが、我が国ではそれを実現しようと言う実効性が足りませんでした。お恥ずかしい事ですが、シェルターの建設費用や実際の避難生活のことなどを真面目に考える者が無く、予算を割く気が無かった。トンネルを掘削する技術はかなり高いのにです」
 後悔の念で内藤は苦い表情だ。




「仕方がありませんよ、内藤さんが悪いのでもないし、それが日本文化の特徴でしょう。災害や大火災で日本人は家や街そのものを幾度も失った。その経験が災害にも反映されていたと言う事でしょう。家も待ちも失うたびに日本人はそれを立て直してきたのですから、先祖からの遺伝的な慣習としてあなた方の身体に沁み込んだそれが文化として今に残っていた」
 ハロッズは内藤が自分を責めようとしているのを察してその前に、内藤が責任を負う事では無かったのだと言った。焼け出されたら建て直せばよいというのが、民族的な特徴だと言うのは、ハロッズの本音だった。ハロッズは重ねてこう語った。
「我々欧米人はしっかりした建物を長く使うのが文化になっている。アメリカ合衆国の常識では、家ひとつでも、数十年どころか百年、二百年と家、屋敷を修繕して使います。長く使える建物に価値を見出す文化なのです。災害や戦時に対する備えもしっかりしたシェルターを準備している国々が多い。日本人の遺伝的な考え方が、欧米のそれと異なるのでしょう、決して内藤閣下が悪いのではありません。地下を嫌うよりも我々は、地下にこそ都市並みの設備を準備してこのように、軍事も政治も機能できるようにしておりました。ですから我々は、貴方たち日本の皆さんをお助け出来て光栄です、内藤閣下」
「ありがとう!ほんとうに、ありがとうございます、大統領閣下!!戦争や災害なんか来ないから大丈夫だと言う考えが日本にはありました。核攻撃に対しても実際には、何の備えもありません。そういう日本人と政府の甘さが、多くの国民の生命を失わせてしまった。私はその責任を取るためにも、今生きている日本人が僅かでも生存していたら、その人たちを探し出して安全な地域に避難してもらわなければなりません。勝手な願いを聞き届けて下さった事を日本人の代表として心から感謝いたします、閣下」

 潜水艦での日本人救出作戦はすぐ決まった。
 かつて、内藤は潜水艦隊の半数を国外に退避させていた。また、日本の領海内にもその半数を留めていた。米国海軍も各種潜水艦が多く温存されている。問題は油であった。
 内藤には、考えがあった。

  (続く)

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Last updated  2024/04/02 12:09:12 AM
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