▲▽血液型の謎△▼渡辺淳一『血痕追跡』
渡辺淳一といえば『失楽園』がぱっと頭に浮かびますが、執筆初期には医療現場を舞台にした小説も多く扱っています。この短編は、整形外科医である筆者の整形外科ミステリー。 国道の横断歩道を渡っていた少年が、途中から引き返そうとしてトラックに轢かれ、国立第一病院に運ばれてきました。少年は意識がなく両脚を骨折していました。 止血、輸血した上で血圧の回復を待って左脚は切断することになりましたが、結局少年は助かりませんでした。 遺族は血液型を間違って輸血したことが死因ではないかと迫ってきます。少年はA型なのにB型の血液を輸血していたというのです。ですが、輸血前の検査では確かにB型の結果が出ています。一体なぜ? 血液型は、赤血球の表面にA型抗原とB型抗原を持つことで決まります。Aだけ持つ=A型、Bだけ持つ=B型、A,Bとも持つ=AB型、どちらも持たない=O型です。新生児では抗原がまだはっきりとしないので、検査しても誤ることがあります。また、骨髄移植により血液型が変化することもあるそうです。 この作品中の少年は血液型が変化したわけではありません。血液型の謎は解けますが、これからがもう一つのドラマの始まり…という結末です。 参照元:佐野洋・編『ミステリー総合病院』光文社文庫から 渡辺淳一『血痕追跡』