「凪」は、「なぎ」「な(ぐ)」と読む国字です。風がまえに止(とまる)の字面通り、「風がやむ」意味を表します。
寺田寅彦が日本各地の風の変化を統計的に調査したところ、太平洋沿岸や瀬戸内沿岸の多くの場所で、陸軟風と季節的な主風が相殺されて夕凪(ゆうなぎ)の時間が延長されるのだそうです。
陸軟風は、晴れた日の夜、陸から海へ向かって吹く穏やかな風です。季節の主風は、天候に関係なく一定方向から吹く風で、夏の南風・冬の北風ですが、吹き方にその土地での特徴があります。
夕方、昼の海風から夜の陸風に変わるときの無風状態が「夕凪」です。夏、太平洋側や瀬戸内海の海岸部では、夜に吹くべき陸風が季節の南風と打ち消し合って、凪の時間が長くなるそうです。
ところが、東京は地形の特殊性により、この相殺作用が及ばないのだとか。
本来、東京は夕凪が短く、夕方は涼風が吹くはずだったんですね。地球全体が暑くなっている現代では考えられないことですが。涼風どころか、密集した家々やビルから熱風が吹き出す今野様子を見たら、寅彦もびっくりですね。
今も昔も暑い時は暑い!『涼味数題』には、暑い年の夏には頭から水をかぶって涼をとったとも書かれています。
参照元:青空文庫 (底本)小宮豊隆・編『寺田寅彦随筆集 第四巻』岩波文庫