著者は「久生十蘭」。戦中から戦後にかけて書かれた作品は、「残酷」というテーマが研ぎ澄まされた感覚で物語になって語り尽くされてる。加虐的な残酷は「マルキド・サド」のエロスな残虐と共通するが、その行為はまったく異なり、人間を容赦なくどこまでも感情も無く、科学の実験のように実際的に残虐に扱う。そこには、美学や楽しみは無く、ただ苦痛と生身の人間の弱さのみが存在する。しかし、物語は面白い。伝奇物の趣がある。この作品は短編集でいくつかの物語が収められているが、特にこのなかで物語として私の興味を引いたのは、「新西遊記」という作品。そこには、チベット仏教の世界の伝統を、歴史的事実を題材として、その裏側を独自の解釈で残虐な物語として創り上げている。私の読んだのは、国書刊行会の日本幻想文学集成12巻「久生十蘭」という一冊だが、文庫でも出ているので興味がある方は手にとって欲しい。江戸川乱歩のような艶やかさも無く、背筋がぞくぞくするような快感も無いが、人の心の潜在的な好奇心は読み始めると生理的にやめる事ができない。この内容では、18禁でもおかしくないと思うのだが。それでも文学であり、一人の作家の魂の読み取れる一冊になっている。
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最終更新日
2005年11月20日 22時15分03秒
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