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『その炎の前には黒い人影がいくつか無気味に立っていて、彼はあえぐような叫びを聞きとった。一瞬間できた割れ目を通して、ひとりの男が、炎の塊が、ぐるぐる走る姿を見た。それは5ガロンの石油驩をくっつけられ、それがロケットの火花のように噴射するのを背負ったままで走っていた、
(略) 「そりゃあ、あいつの弁護士だぞ」 「やつを弁護した野郎だぜ。やつを白にしようとした野郎だ」 「そいつも中に入れちまえ。まだ弁護士を焼くぐらいは残っているぜ」 「その弁護士も野郎と同じ目に遭わせようぜ。野郎が彼女にしたと同じ目に遭わせちまえ(略)」 ホレス(註:罵られている弁護士本人)にはそれらの声が聞こえなかった。彼の耳には焼かれた人間の叫びも聞こえなかった。焚火の音も聞こえなかった。しかしその火炎は衰えずに上空へと渦巻き上がっていて、まるで自分で自分を食って勢いづくかのように、音もなく燃えていた、夢の中で聞く憤怒の声のように、静寂のなかから音もなく上へ渦巻きあがっていた。』 (新潮) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.01.21 01:13:32
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