起坐呼吸とは、呼吸困難が臥位で増強し,起坐位または半坐位で軽減するという臨床的徴候です。一般に左心系の機能低下,僧帽弁膜症などによる左心不全の主要徴候として知られています。左心不全の状態で臥位をとると,右心系への静脈還流の増加,これによる肺血流の増加から,肺うっ血,肺コンプライアンスの減少をきたし,呼吸仕事量の増大を招きます。この変化が起坐位では軽減するため,患者は自ら起坐位をとろうとします。ただし,起坐呼吸は左心不全に特異的なものではなく,気管支喘息や肺炎,気管支炎などでもみられます。これらの疾患では肺血流量の問題ではなく,気道分泌物の喀出が臥位では困難となることが原因と考えられています。 座位や半座位になると横隔膜が下がり、腹部の内臓が重力で下垂するため、横隔膜への圧迫が減少します。その結果、呼吸面積が広がって肺の伸展が容易になり、呼吸が楽に感じられるようになります。また、胸郭が伸展し、横隔膜や側腹筋の運動が、より活発になることも呼吸を楽にする一因です。うっ血性心不全などの心臓性呼吸困難の場合は、座位になると下肢や腹部の静脈に血液が溜まり、心臓に戻ってくる血液が減少するため、肺のうっ血が軽減されます。これによって、呼吸はやや楽になります。