ショート ショート 太郎
黒ハット 「なぁ お前 投げ出したくなったんだろ?ケケッ」 「この世界にいる意味がわからなくなったんだろ?ケッ」太郎が歩いている最中、黒ハットが話しかけてきた。往復20分の距離、今日はいつもより涼しさを感じていた。 黒ハット 「お前の聞きたくないコトバ 言ってやろうか?」白ハット 「やめろよ!なんでそんなに意地悪するんだ!チチッ」黒ハット 「また、お前か、随分弱ってるみたいじゃないか ケケッ」白ハット 「太郎は頑張ってるじゃないか、知ってるだろう?チチッ」黒ハット 「ケッ!頑張ってる?少なくとも 俺様には 昔のコイツの方が まだましに思うぜ」 太郎が川沿いに差し掛かった頃から 白ハットと黒ハットの声がずっと聞こえていた。蝉の声が 激しく耳に響いた。まるで、自分達の存在を必死に示すように。 「僕達は ここにいるけれど、これからもここに来れるとは限らない」そんな風に主張しているようにも思えた。 黒ハット 「おい、太郎、聞いてるのか?ケケケッ!」太郎は何も答えなかった。歩きながら下を向きそうになる度に 意識して顔を前に向ける事だけは忘れずにいた。黒ハット 「お前、わかってるんだろうな?」 「誰もが 望んでいるんだぜ?」 「あれはな、もう お前一人の問題ではなくなってしまったんだよ ケッ」白ハット 「太郎は、ちゃんとわかっているよ チチッ!」黒ハット 「わかってる?わかっているフリをしているだけだろう ケケケッ!」 「お前の言う神様って ヤツも そろそろお前に見切りをつけるぜ 」白ハット 「やめろって言ってるだろ!チチッ」白ハットが何だか弱々しかった。 黒ハット 「 ケッ! コイツ 何も答えないじゃないか」 「お前が 呼んだんだぜ?あの時 俺様を 呼ぶなって警告したのに」 「張り合いがねぇな せいぜい期待を裏切ることだな ケケッ!」 太郎は、口を開こうとしなかった。いや、 言い返すコトバがなかったのだ。 往復20分の距離 気付けば30分の時間が経っていた。首筋と背中にかけて 汗ばんだ体を 太郎は そのままにベッドに仰向けになった。扇風機の音と 少し鳴き声がやみつつある蝉の音だけが、太郎の耳に響いていた。