カテゴリ:化学
![]() (株)三菱ケミカルホールディングス【東証1部:4188】・三菱化学 社長 小林 喜光 氏 うちの会社の連中にいつも「too much technology oriented」なんて文句を言っているんですね。テクノロジーを深堀りするだけでは,ものづくりに生かすことができない。テクノロジーが縦の構造とすれば,横はマーケット。例えば自動車,エレクトロニクス,食品,あるいは住宅といった分野です。縦と横の両方を見ながら進んでいかないといけない,というのが僕の持論です。 そのとき縦は何を志向するかっていうと,取りあえずは「秘伝のたれ」です。焼き鳥のたれとか,「訳が分からないけど,うまい」っていうのがありますよね。このような秘伝がある製品でないと競争力が出てきません。 三菱化学メディアの社長だったころ,光ディスクやDVDで構築したビジネスモデルは,色素を握ってビジネス全体をコントロールするというものでした。光ディスクもDVDもポリカーボネートの上に色素を塗るだけでできる,いわゆるモジュールタイプ(組み合わせ型)の製品です。単純なものづくりで収益を上げることが難しいわけです。 ところが,色素が秘伝のたれになれば全体を左右できる。標準化を進めて,この色素を使わないと,このDVD-Rの標準に合致する特性が出ないという仕掛けです。そういう技術的な縛りを入れないと,あっという間に台湾やインド,中国に取られちゃいますね。 我々は多岐にわたるものづくりをやっているので,秘伝のたれの強さがよく分かります。典型的なのが医薬品。強力な特許さえ持っていれば,誰もマネができないので10年間ずーっとエンジョイできます。 秘伝のたれ的な強みを持った事業は多くの場合,扱う量は少ないですが利益率は大変高い。反対に,化学の著名な研究成果を用いたような,技術の内容がオープンで,プロセスも触媒もほとんど分かっている分野は誰でもできるので,利益率は低いけれど量的なうまみはある。どちらを採るかといったら,我々の場合は両方やります。それぞれにリスクがあるので,平準化するためには片方というわけにはいきません。 選択と集中は技術の「出口」で ――化学メーカーに選択と集中は不要なのですか。 もちろん,すべてをやるわけではありません。総合化学メーカーは手を広げすぎるという面はあります。ビール屋さんはビール,自動車屋さんは自動車と,会社としてのイメージも事業自体も,ある程度集中させられる。自動車は部品点数が何万個もあるといわれますが,我々は商品自体が何万個もあります。化学という,学問の名前の付いた産業であることの一つの帰結だとは思いますが。 それで,総合化学メーカーは集中ができてないし利益率も低いと批判されることが多いのですが,いろいろやっていることが今後は逆にプラスになるかもしれません。今は,科学的な大発見がない時代になっているからです。 例えば,新薬開発の確率は非常に下がっています。一方で,研究開発費はうなぎ登り。化学反応に使う触媒は,1950~1960年代には新しいものが次々とできましたが,今はほとんど出てこない。物理に至っては,20世紀初頭のアインシュタインよる光電理論や量子力学以降,根源的な発見はありません。半導体はあくまでその延長で,サイエンスというよりテクノロジーです。そんな状況で新しい価値を生み出そうと思ったら,さまざまな要素技術を複合していく以外にありません。 だから個別要素技術はしっかりと幅広く持つ一方で,出口だけは集中しようと考えています。では,すべての要素技術の開発を手掛ける必要があるかというと,そうではありません。自社が強いところは当然やりますが,弱いところは外に頼ればいい。アウトソースすればいいのです。しかし,最終的な成果である商品は自分たちで造る,足りない部分はアウトソースする。研究をアウトソースしてもいい。 一番重要なのは出口であり,その出口がぶれないことです。マーケット主導でテクノロジーを導かないといけません。ですから,何か技術があっていいものができた,だから売れるというは,もはや逆です。研究成果を生かすも殺すも,最終的には出口です。つまり出口をデザインし,そこに集中することが重要なわけです。あ,うちにはこんなすごい要素技術があった,隣の部分はうちにはないが他社から都合をつけられる,とつなぎ合わせていって,最終商品としてどんな価値を生み出せるのかを見通さなければいけません。 プロフィール 小林 喜光(こばやし・よしみつ) 1974年12月三菱化成工業(現・三菱化学)入社,中央研究所研究開発室(触媒研究),1996年6月三菱化学情報電子カンパニー記憶材料事業部長 兼 三菱化学メディア取締役社長,2006年6月三菱ケミカルホールディングス取締役 兼 三菱化学常務執行役員兼 三菱化学科学技術研究センター取締役社長 兼三菱化学生命科学研究所代表取締役,2007年4月三菱ケミカルホールディングス代表取締役社長および三菱化学代表取締役社長に就任。理学博士。 Tech-On! - 2008/05/14 関連サイト 株式会社三菱ケミカルホールディングス 三菱ケミカルホールディングス - Wikipedia 株価 Yahoo!ファイナンス - 4188.t 三菱ケミカルホールディングス (東京証券取引所) 株マップ.com 株価 4188:三菱ケミカルホールディングス - Infoseek マネー 株価ジャッジ | 三菱ケミカルホールディングス (4188) 4188三菱ケミカルHLDGS(旧三菱化学)|株式投資顧問会社|イー ... お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008年05月18日 13時25分39秒
[化学] カテゴリの最新記事
|
|