カテゴリ:カテゴリ未分類
である。
おれたちがいったときには、すでにミーティングがはじまっていた。
榎本の部屋も洋風であるが、副長の部屋よりもひろく、椅子や机、テーブルや長椅子までそろっていて、十名程度のミーティングであればヨユーでできる。
「土方君」 「土方君」
副長が榎本の部屋のドアを開けるなり、黄色い声が飛んできた。
『土方君』のうしろに、ハートマークがみえるくらい、いまの二人の声ははずみまくっていた気がする。
「さあさあ、朱古力瘤 入れ入れ。どうだい、一杯やらねぇか?」
榎本は、サイドテーブルっぽいちいさなテーブルにちかづくと、その上にある葡萄酒の壜を持ち上げ軽く振ってみせた。
「ああああ?打ち合わせではないのか?それに、おれは酒はやらぬといったはずだ」
副長は、ソッコー拒否った。
「たしかに、打ち合わせさ。しかし、酒が入った方が頭がすっきりするんだよ。それに、舌のまわりもよくなる」
いまの榎本の言葉は、いったいどういう理論なんだ?
舌のまわり方というのはアリかもしれないが、頭がすっきりするなんて、フツーありえるのか?
「断るったら断る。呑むんだったら、打ち合わせがおわった後にでも大鳥さんと呑めばいいだろう」
副長は、断固拒否のかまえである。
しかも上司、もとい上役にたいして、なんたる態度、対応なんだ?
「まったく。きみは、遊び心ってもんがないねぇ」 「すくなくとも、あんたらにたいしてはない。兎に角、さっさとやってくれ。おれは忙しいんだ。このあと、約定があるからな」
いまの副長の約定、というのは嘘ではない。
称名寺にいき、ひさしぶりにで受け取っている。
それから、三人で同時に湯呑みをあおった。
「タコノマクラのことだ」 「タコノマクラ?」
榎本の口から唐突にでてきた単語に、副長と俊冬と俊春とおれが同時にきき返した。 タコノマクラ、タコノマクラ……。
タコノマクラ……。
タコっていうくらいだから、海にいる生物のことだろうか。
「そうなんだ。タコノマクラだよ。あれが大量にいるようでね。蝦夷の住人からきいたのだが、燃やせばたい肥になったり燃料になるのだとか」 「そうなのです」
大鳥につづき、澤がこちらを向いた。
かれもなかなかイケメンである。ウィキの写真より若くて細身だ。
「きたる敵との戦いに備え、燃料は必要不可欠です。それに、喰う物も必要です。春になれば、開拓した土地に人を送りこみ、農作物や米をつくればいいのではないかとかんがえております。そのためには、肥料が必要です」
澤の突然のプレゼンに、おれたちは同時に心のなかでツッコんだ。
『いやいやいやいや。種子をまくことはできても、芽がでるがついてしまっている。燃料も肥料も必要なくなるよ』
ってな具合に。
この箱館政府が、このさき何年もつづくのならまったくもってそのとおりである。
燃料や喰いものも含めた物資を購入しようにも、敵に船の航行をとめられればそれもできない。ということは、敵に邪魔をされずに入手できる方法を模索するか、自分たちでつくるかなにかしなければならない。
それこそ、自給自足である。
それにはやはり蝦夷の地の開拓、開墾が必要になる。
もっとも、それはこの箱館政府がつづくこと前提の話である。
「そこで、タコノマクラというわけです。タコノマクラは、海にいくらでもいます。それをとってきて燃やし、どうなるかを試してみたいのです」
正直、タコノマクラの明確なイメージがつきにくい。これといったビジュアルが浮かんでこない。
それでも、はたしてそんなものを燃やして燃料やたい肥になるのだろうか?
勘繰ってしまう。
眉唾ものであると思わざるを得ない。
「でっ、そのタコノマクラとおれがどういう関係があるんだ?」
まさか、そんな眉唾もののことを試したとしても「ムダムダムダーーーーーッ」ってなるってことを、某コミックみたいに叫ぶわけにもいかない。
副長も、とりあえずはそう尋ねるしかなかったようだ。
「そこなんだよ、土方君。タコノマクラが誠に燃料やたい肥になるのか、試してみようと思うんだ。それにはまず、タコノマクラをとらなければならない」
大鳥のに、気味が悪いほどあざやかな笑みがひらめいた。
イヤな予感しかしないんですが……。
「まさか、それをにやらせようっていうんじゃないだろうな」 「ご明察。さすがはぼくの土方君」
大鳥のに、さらなる笑みが浮かんだ。
「ぼくの土方君?おれは、だれのものでもない。おれ自身のものだ」 「いや、副長。いまはそこじゃないですよね?そこが問題じゃないですよね?」
思わず、上役にたいしてツッコんでしまった。
「ったく、なにゆえがかようなくだらぬ噂の真偽を確かめねばならぬのだ」 「頼むよ、土方君。心やすくお願いできるのは、きみくらいなものなんだ」 「あああああ?大鳥さん、おれは心やすくねぇ」 「まあまあ、土方君。おれからも頼むよ。新撰組は、屈強な隊士がおおい。このクソ寒く、凍っちまいそうななかでも、海にはいってタコノマクラをとってこれるってもんだ」 「はああああ?榎本さん。あんたお気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.10.21 22:51:12
コメント(0) | コメントを書く |