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「九一,明日から行くのやめろ。運良く今三津さんは元周様の所や。あの女将は手が出せん。 そこまで執着しとるなら多分こっちに乗り込んでくる。そこでどうにかしよう。」
高杉は大丈夫だと何度も唱えて入江の背中を擦った。
「どうにかなるか?」
高杉の言葉に少し落ち着きを取り戻した入江は藁にも縋る思いでその顔を見つめた。
「どうにかする。そんな女にお前らの平穏壊されてたまるか。三津さんにも言ったが,こう言う時は焦って答えを出すな。一人で抱えるな。頼れ,仲間やろ。 やけぇ,明日からはもう行くな。」
「そうする……。それで……何で元周様は三津連れて帰ったん……。」
帰って来て遠くからでも三津の笑顔を見て元気を貰おうと思ったのに。
「そりゃ嫁ちゃんが歩く問題児やからやろ。」 脫髮先兆
山縣が自信満々に言い切ったから入江はふっと笑みを溢した。
「そうやな……。明日朝一で迎えに行く……。」
「あーそれなら俺が行く。元周様は九一を寄越してくれるなって言っとるんやと。」
入江はぽかんと口を半開きで高杉を見た。そして小さく“何で?”と洩らした。
「分からんけどそう言ったほっちゃ。嘘やないで?」
山縣もその意図は全く分からんと他人事のように言った。 入江はにんまり笑う元周の顔を思い浮かべて眉間にシワを寄せた。
『あの狸親父何考えとるんや……。変な事されちょらんかったらええんやけどな……。』入江はここ最近の出来事を少しずつ口にした。三津が女将と二人で会ってから様子がおかしくて,傍に居なくていいと突き放されたと悲痛な顔で事の発端を話した。
「そりゃ女将が何か言うたんやろな。」
「やけぇ問い質しに行ったのに逆に脅された。」
それを聞いた面々は言ってる意味が分からないと首を傾げた。入江はそうなるよなと自嘲するように笑った。
「木戸さんが女将に三津は引く手数多で油断ならん相手が近くにおるとか話とって……私と三津の関係に気付いとる。」
みんなは“あぁ……”と何とも言い難い気持ちを乗せて声を洩らした。
「女将は三津に攻撃的で,三津が精神的に脆いのも分かっとって潰すのは簡単やって言う……。本当に放っておいたら何仕出かすか分からんぐらい危ない目するそ……。」
「それで?脅してまで何がしたいん?それただ単にみんなに慕われる三津さんへの嫉妬か?」
高杉がまだ何かあるだろと言うと,入江は他にも事情があると小さく呟いた。 高杉達は他にある理由は何だと聞き返すが,入江は女将が自分に惚れていると言うのが何となく言い難くて口篭った。 高杉はその様子を見てボリボリ頭を掻いてから胸の前で腕を組んだ。
「女将はお前に惚れとんか。」
単刀直入言われて素直に頷いた。
「私は憶えとらんけど一度だけ関わった事があったらしい……。その時からやって……。 それに女将は過去に旦那に逃げられとるんて。婿養子やったけど他所に女作って出てったらしい。 そのせいもあるんか三津への妬みが凄い……。」
高杉はなるほどなと顎を擦った。
「自分は他所の女に男盗られて,三津さんは旦那にも九一にも好かれとっちゃあ妬むわな。」
「それに私を正しい道に戻すって言い張って話しが通じん。 粘着質で前も三津に会いにここまで来た。自分の正義を振り翳してどこまでも追ってきそう。」
入江はまた深い溜息をついて背中を丸めた。
「そうね……。おまけに和菓子屋の女将となると顔は広いから悪いデマなんていくらでも流せるけぇ,そんなんされたらお三津ちゃんはこの町におられんくなるやろね……。」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.05.03 00:42:56
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