物語の終わりにもいろいろありますが、私としてはやっぱり終で終わるのではなく、始まりで終わるのが良いと思うのです。その後は私たち一人一人の読者や視聴者が、思い思いに続きを想像できる、それが理想的な完結ではないでしょうか。
『死神の精度』は、金城武主演で映画化もされたファンタジー小説です。主人公は死神。彼の仕事は地上に降りて、死を宣告された人間が、本当に死なせていいか調査をすること。彼の選択する結論で人の生死は決まるのです。今回の調査対象は、人生に絶望しきっている女性。それとなく接近し、彼は彼女の生活に入り込みます。いつものように、「死」を選択するつもりだった彼でしたが‥…。
生と死を司る絶対者をテーマにした物語はいろいろありますが、死神をお役所勤めのサラリーマンの様に描いているのが実に面白く、やもすれば暗くなりがちなテーマに乾いた笑いをもたらしてくれます。調査対象になるのは、前述した人生に絶望した女や古風なやくざ、殺人犯、詐欺師と様々で、それぞれがドラマチックな展開を見せてくれます。そしてなにより、この短編群の素晴らしいのは、ラストまで描ききらないところでしょう。「死」を選択するにしろ、「生」を選択するにしろ物語はそこで終わり、後は読者の想像に委ねられます。最近の小説は、サービス精神旺盛なものが多くて、こんな粋な計らいで終わるのは珍しいように思えるのですが。だからといっては何ですが、ラストの話はいただけないです。せっかく想像の余地を残してくれたのに、なんだかぶちこわしでした。