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駆け出し記者の一期一会

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2008年03月15日
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カテゴリ:展覧会
「写真」というより「絵画」だった。
初期の作品には、静物画風あり肖像画風あり、ヌードのデッサンのような写真もある。
後に撮られた大地の畑の畝や古木の年輪を「皺」と捉えた作品はまるで抽象画だし、
修道院の若い司祭達が輪になって楽しげに踊る写真はグラフィカルな広告のようだ。
そして、遺作の「この憶い出を君たちへ」には犬や鳥、奇怪なマスク、案山子や人形が
混沌と配置されて、ダリの絵のようなシュールな世界が示される。

これは何?

心を捉えて離さないけれど言い表すことのできない想い。
今浮かんだけれど次の瞬間には忘れてしまいそうな考え。
いつか見たような気がする古い町並み。
何度も繰り返し見る不思議な夢。

・・・そういうものをどうにか視覚化しようとする試みのように見える。
もちろん、写真であるから個々のパーツは確かに現実に存在するモノなのだが、
それらを構成しなおして創造された画面は、この世そのものではなく、
写真家がこの世でどのように感じたかを伝えるものとなっている。

だから、現実を凝視してリアルに撮られた作品(そういうのもある)に対しても、
「きっとこれにも何かあるんじゃないか」
と思って、一枚一枚をじっと見つめてしまうのだ。

たとえば、ホスピスで死を待つばかり老人達の姿。
皺くちゃに潰れた顔、歯のない口、目の周りの巨大な隈が
情け容赦なくクローズアップされ、思わず目をそむけたくなるグロテスクさである。
この世に生まれた赤ん坊が辿りついた末期の姿が示す
「生きること」の酷さは、見る者を立ちすくませ、
その酷い現実に身を捧げた残骸のような存在に、頭を垂れるほかない。

母子家庭を支えるために母が働いていたホスピスに、少年の頃から出入りしていた写真家は、
そこで感じることが一体何なのか、わからないでいた。
人に勧められて、フランスの巡礼地ルルドへ赴く。

聖地ルルドで見たのは、世界中から奇蹟を待つためにやってきたおびただしい人の群れ。
車椅子の行列。我が子を押しながら目が天を向いている母がいる。殉教者の聖女のようだ。
無数の簡易ベッドに横たわる病人。みな老人かと思ったら、真ん中辺りの少年と目が合った。
年端も行かないのに、不治の病なのであろうか・・・
奇蹟はおそらく起こらない。それでも人は希望を捨てられない。

写真家はこう述べている。
「ホスピスでは誰もが死ぬことを願っていたのに、
 ルルドでは誰もが生きることを願っている」
「逆説だよね。真に苦しむ人たちが生を求め夢見るなんて。
 彼らは何処にも行き場がなくて、何かを発明せざるを得ない。聖母とか」

ルルド行は「生」と「死」が互いに依存しつつ共存していることを確信した旅となった。
そして、「時間」=「老い」と同伴せざるを得ない「生きること」の象徴として、
彼は「皺」を撮り続けたのだった。

このイタリア人写真家、マリオ・ジャコメッリは、生涯アマチュア写真家で通した。
1925年、セネガリア生まれ。中部イタリアのアドリア海に面した古い小さな町である。
9歳で父を亡くし、13歳から印刷屋で働き始めた彼は、
1953年のクリスマス・イブに初めて自分のカメラを買い、
土曜日の午後と日曜日にだけ写真を撮るようになった。
やがて、ニューヨーク近代美術館のキュレーターの目に留まる。
中世そのまま、石畳と家々の壁の漆喰の白を背景に、
男も女も黒の伝統衣装を纏う村「スカンノ」を撮った作品によって
世界的にその名を知られるようになっても、ジャコメッリは終生、
故郷のセネガリアにとどまり、印刷屋という職業も職場も変えることはなかった。

プロって何だろう?
アマチュアって何だろう?

彼は写真で生計を立てようとはせず、
あくまでも自身の内面を表現する手段として作品を撮り続けた。
売れる?売れない?世の中に受け容れられる?受け容れられない?
そんなことに関係なく自身の真実を追求したものが、結局、
彼の死後も、強いメッセージとなって残っているのである。

これまで日本ではあまり知られることがなかったこの偉大なアマチュア写真家を
初めてまとまった形で紹介する写真展が今日から始まります。

「知られざる鬼才 マリオ・ジャコメッリ」
東京都写真美術館にて 3月15日~5月6日





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最終更新日  2008年03月17日 14時21分52秒
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