カテゴリ:西アジア・トルコ
昨日いったん書いたけど、誤操作で消してしまったメモ。
まずはこのニュース。 (引用開始) <米下院外交委>アルメニア人迫害…「大虐殺」認定決議 10月11日13時10分配信 毎日新聞 米下院外交委は10日、第一次世界大戦期のオスマン・トルコによるアルメニア人迫害を「大虐殺」と認定する決議案を賛成27、反対21で可決した。両国間ではトルコから独立を目指すクルド人武装勢力への対応をめぐって摩擦が高じており、米政府はイラク戦争の遂行能力に深刻な打撃を与えかねないと危機感を強めている。 (引用終了) なんか日本がかかわる似たようなニュースをこの春だかに聞いたことがあるような・・・。アメリカ議会じゃこういう決議は結構頻繁に行われてるんだろうな。トルコに関わりがある僕とはいえ、オスマン帝国によるアルメニア人虐殺は間違いなくあったと思うけど(この日記の過去記事)、インディアンを強制移住させたり大量虐殺したアメリカなどには言われたくないなあ、というのが正直なところ。 今の時期にどうしてこの決議?とは思うが、今年一月にイスタンブルでアルメニア系トルコ人の作家フラント・ディンク氏が暗殺されたことは関係するんだろうか。イラク駐留米軍の物資の7割がトルコ経由で輸送されているそうだが、民主党優勢のアメリカ議会ではトルコがつむじを曲げてそれに支障が起きても構わないということだろうか。 今年春の対日決議の時も背後に中国系市民の活動が報じられたが、この対トルコ決議案を提案したアダム・シフ議員(民主党)はその苗字(Schiff)が示すようにアルメニア系ではなくドイツ系ユダヤ人の子孫であるが、アメリカ国内にはアルメニア人が多く住んでいてロビー活動も活発であるという。 2000年の国勢調査では自分をアルメニア系と申告した国民は38万人と、割合はそれほど多くないが(参考:最大のドイツ系5000万人、ユダヤ系700万人、中国系350万人、韓国系140万人、日系人120万人、トルコ系16万人)、こうした自己申告以外を含むと最大140万人くらいになるという。最初にアメリカに移民したアルメニア人は早くも1618年までさかのぼるが、やはり大部分はオスマン帝国の迫害を逃れて来た19世紀末及び20世紀初頭のようだ。ただ移民としての規模は大きくなくとも、オスマン帝国ではユダヤ人と並んで経済活動の中心だっただけのことはあり、経済界でかなりの力があるらしい。アルメニア系の著名なアメリカ人というとテニスのアンドレ・アガシが挙げられるが、経済界では「ラス・ヴェガスの父」と呼ばれるカーク・カーコリアンがいる。 アルメニア人がとりわけ多いのがカリフォルニア州、特にハリウッド郡だそうだが、グレンデール市では住民の26%がアルメニア系であるという。ここはカリフォルニア州第29選挙区に属するのだが、言うまでもなくアダム・シフ議員の選出区である。 昨年10月にはフランス議会が「アルメニア人大虐殺否定禁止法」を可決している。まあ歴史の歪曲は良くないとは思うけど、禁止法まで作るべきかというと引いてしまうのだが。 実はフランスにもアルメニア系移民が多い。世界で一番アルメニア人が多いのはもちろん本国アルメニアだが(ナゴルノ・カラバフと合わせて450万人)、次はアルメニアの旧宗主国ロシア(113万人)、そして約50万人のフランスが3位になる。アルメニア系のフランス人というと結構ビッグ・ネームがあって、歌手のシャルル・アズナヴール、シルヴィ・バルタン(ブルガリア出身)、F1レーサーのアラン・プロスト(祖母がアルメニア難民)、さらにはエドゥアール・バラデュール(トルコのイズミル出身)と元首相さえもいる。なおフランス以下はイラン、アメリカ、グルジア、シリア、レバノン、アルゼンチン、ウクライナと続き、かつてアルメニア人の中心地だったトルコには、現在10万人以下しかいない。 アメリカもフランスも「民主主義の祖国」を自任しているが、最近の外交こそ路線の違いが目立ったものの、本質では似通った国なのかもしれない。アルジェリアという脛に傷を持つ身であることも同じだしな。まあそれでオスマン帝国の汚点が相殺されるわけでもないけど。 ・・・・・・・ 次のニュース。上のニュースと無関係のようで、実は少しは関連がある。 (引用開始) <トルコ>国会がクルド系武装組織掃討の越境許可を承認 10月18日0時25分配信 毎日新聞 【エルサレム前田英司】トルコ国会は17日、同国からの分離独立を掲げるクルド系武装組織「クルド労働者党」(PKK)の掃討のため、潜伏拠点のあるイラク北部への軍隊の越境侵攻許可について採決し、賛成多数で承認した。 一方でイラクはトルコに対し、強行策の抑制を求めている。ロイター通信によると16日、トルコの首都アンカラを急きょ訪問したハシミ・イラク副大統領は、トルコのエルドアン首相、ギュル大統領と会談、越境侵攻に踏み切らないよう要請した。イラクのマリキ首相は危機管理委員会を設置して対応策を協議し、17日には政府高官による協議団を近くトルコに派遣する方針を発表した。 トルコは今のところ「国会承認が即、越境侵攻開始を意味しない。適切な時期に行動する」(エルドアン首相)と慎重姿勢を示しているが、これまでのイラク、米国のPKKへの対策に強い不満を抱いている。(以下略) (引用終了) 国際原油価格高騰(史上初の90ドル!)の原因とされるこのニュース。 EU加盟との絡みもあるのでイラクへの越境攻撃はすぐないとは思うが(いや、あるか??)、実際イタチごっこのようになっているのでトルコ側の言い分も分らないでもない。一時は沈静化するかと思われたPKK(Kongra-GEL)の活動は、2003年のイラク戦争の頃から再び活発化し始めている。 僕が行ってたトルコの村からも若者が徴兵されてジャンダルマ(軍警察)に入隊し、PKKの攻撃で重傷を負ったという話を聞かされた。シワスの警察署の入口の掲示板には、テロの非道さを宣伝する目的なのか、PKKのテロで吹き飛ばされた(?)生首の写真(無修正)が掲示してあってギョッとしたことがあったが・・・。PKKと軍・警察との抗争ではこの20年で一般市民も含めて3万人が犠牲になっているという。トルコ南東部で発掘していた考古学者にも、PKKの自動車爆弾で犠牲になった人がいる。まあトルコ政府も国内のクルド人にえげつないこと(強制移住や捜査と称した暴行)をしているという話も聞くんだが。 ただ今の時期にこうした作戦が叫ばれるというのは、一つにはイラク北部のクルド人自治区が近々独立宣言するのではないかとささやかれているので、クルド人独立国樹立に対する牽制もあるだろうし、最近イスラム主義への志向を強める政府に対して、政教分離の原則にこだわる軍部もしくは反EUの野党(MHP)が揺さぶりをかけているのかな? クルド人の側でも内情は複雑で、トルコ国内で活動するPKKは隣国シリアやイランの援助を受けていた。イラク国内のクルド人組織では、クルド愛国者同盟はイランから援助を受けて反サダム・フセイン政権のトルコ寄りで、イラク領内に逃げ込んでは自分の「縄張り」を荒らすPKKと対立していた。クルド愛国者同盟の指導者は現イラク大統領のジャラル・タラバニである。またそのクルド愛国社同盟が分離した元のクルド民主党の指導者マスード・バルザニは現在クルド自治区の議長だが、これはかつてタラバニとの抗争の際サダム政権の支援を仰いだりもして、どちらかというと反トルコ的な立場にある。トルコ軍が越境すれば反撃すると言明している。 PKKにはイラク領内というトルコ軍の手が届かない「聖域」があり、トルコ国内のクルド人の一定の支持があり、シリアやイランといった外部勢力の支援もあった。これはゲリラ戦には理想的な環境といえなくもない。ただしシリア現政権はクルドを切ってトルコとの融和路線に転じたのか、匿っていたPKKの頭目アブドゥラ・オジャランを追放し(のちトルコ治安当局に拘束され終身刑)、今回のトルコ越境作戦計画についてもアサド大統領が「当然の権利」と発言してイラクのタラバニ大統領から非難されているから、ややこしい。 実は現在クルド人が住んでいる地域の大部分はかつてのアルメニア人の分布と重なっている。オスマン帝国の体制が揺らぐ19世紀の末まではトルコ、アラブ、クルド、アルメニアなどさまざまな宗教・民族が共存していたわけである(イスラムもしくはトルコの支配という大前提下ではあるが)。 ・・・・・・・ トルコの隣国・シリアはアラブ人の国だが(アラブ人の中にもシーアとスンニの反目があるが)、少数民族としてクルド、アルメニア、トルコ人などがいる。アレッポにはアルメニア人街があって、ソ連崩壊直後には買い出しのロシア?人が引きも切らなかったし、クルド人(アラブ人には「愚直」とバカにされている)やトルコ人に会ったこともある。トルコ人にはトルコ語が通じたが、語彙がトルコ共和国のトルコ語と違うのか、少々通じにくかった。 そのシリアにも物騒なニュースがあるが、これまたトルコと無縁では済まない。 (引用開始) イスラエルのシリア空爆、攻撃対象は建設中の原子炉=NYT 10月14日15時3分配信 ロイター [ニューヨーク 13日 ロイター] イスラエルが9月に行ったシリアへの空爆は、イスラエルと米国の情報当局者らが建設中の原子炉と判断していた場所を攻撃対象としたものだった。13日付のニューヨーク・タイムズ紙が報じた。 機密報告書に接した米当局者らが匿名を条件に語ったところでは、この原子炉は、北朝鮮が核兵器用に利用した原子炉が明らかにモデルとなっており、イスラエルが1981年に爆破したイラクの原子炉に比べるとはるかに未完成の段階だったという。 また、ブッシュ政権当局者らの間では、イスラエルによるシリア空爆について意見が分かれ、一部には時期尚早との見方が出ていたもよう。ただ同紙によると、同空爆の可能性はブッシュ政権内で昨年の夏から議論されていた。 同紙は、空爆前の原子炉の完成度合いや、北朝鮮の関与の程度、原子炉が民生用のものだった可能性については明らかになっていないとしている。 (引用終了) このニュース、イスラエルとシリアの双方が情報統制していてなかなか詳細が伝わらないが、意図的リークによると思われる情報がぽつぽつ報じられている。 イスラエル軍機がレバノンのヒズボラ関連施設を爆撃することはよくあるのだが、このシリアの施設はシリア東部のデリゾールにあるという。となるとイスラエル機はかなりの長距離飛行(領空侵犯)をしないといけないわけだが、厳しい防空体制のある首都ダマスカス上空を飛ぶわけがない。となるとルートはヨルダン→イラクの砂漠地帯→シリア東部となる(この場合、イラクに駐留する米軍の諒解が必要になる)か、地中海→トルコ→シリア東部しかない。 ところがなんとトルコ領内でイスラエル軍のF-15戦闘機の追加燃料タンク(増槽)が発見されたというので、トルコでも問題になった(記事・記事)。一部にはトルコの軍部が政府に内緒でイスラエル空軍機の通過を認めたという説もあるらしい(記事)。 トルコ政府が「与り知らぬ」というならそうなのだろうが、軍部との関係で気になるところ。もともとトルコとイスラエルは軍事的にも協力関係にあるとはいえ、上にちょっと書いたように今世紀に入ってからトルコとシリアの関係は一見するとだいぶ良くなっているので、意外な感じがした。やはり知らなかったのか? お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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