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朝吹龍一朗の目・眼・芽

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2009.01.05
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カテゴリ:幽霊
幽霊      第3回

さて、森之宮のフランス語が上達した理由だが、もちろん、と、胸を張って言うが、高尚な理想や気高い目標があってできるようになったわけではない。

 受かるかどうかわからないにも拘わらず、なぜか入学願書にすでに第二外国語選択欄があったので、理科系の人生、どれを選んだって決定的な間違いにはなるまいと考え、女子学生の比率が高いはずだという、いささか不純な動機でフランス語に決めた。まあ、褒められたものではないのは事実だが、クラスメートの男子の殆どは森之宮と同じ下心だったようだから、逆に言えばうぶな学校秀才の考えることなんて似たり寄ったり、陳腐でチープなものだ、と切り捨てることもできよう。ただ、現実はけっこう森之宮に味方したとも言える。思惑通り、その後ある科学雑誌の創刊号を飾ることになるほどの美人と同じクラスに入ることができたのだ。そのクラスの男どもは彼女にいいところを見せようとみんな頑張ったので、理系22クラスのなかでもダントツに成績が良かった。

 そんな話をすると、河野課長からは、その人のことは知っている、神戸に住んでいて、ピアノコンクールか何かで優勝したんじゃなかったか、というようなかなり細かい線まで勝手知ったる反応が返ってきた。森之宮が、
「そうです、よくご存じですねえ」
と言うと、今度は常田部長から河野課長をからかうように、そういうの『だけ』よく調べている、というような茶々が入る。お約束通り、河野課長は、そんなに『だけ』だけ強調しなくたっていいじゃないですか、とかなんとか言い返す。

 ベルギーではワインはほとんど採れず、フランスからの輸入ものが主流なのだが、フランスといってもそれこそ目と鼻の先で、ブリュッセルでは英語を話す人とフランス語のほうが得意そうな人がほぼ半々というところだ。そのフランスワインを4人で5本空けてしまったのだから、料理も相当美味しかったはずなのだが、森之宮は周りの喧噪の中から自分たちに向って浴びせられている好奇の視線と、日本人は英語はわかるけれどフランス語はわからないから大丈夫だろう、と実際に大声で言葉を交わしながら言い続ける悪口に苛々しながら食べていたので、交わした会話以外のことをあまり詳しく覚えていない。何だか損な気分のまま、立てつけの良くないガラスドアを押して外へ出るとすでに11時を過ぎていたが、デュッセルドルフに住んでいる欧州事務所の加藤さんがいいお店を知っているとのことで、2次会に行くことになった。

 ブリュッセルの中心、グラン・プラス(大広場?)から少し北に路地めいた狭い道を入ると、高級通俗取り混ぜたレストランが軒を並べている一角があり、ちなみにその一番奥には小便小僧ならぬ「小便少女」の像があるのだが、その時は全く気がつかないままだった。後日談だが、今世紀に入って間もなく訪れることになった森之宮はあまり恥ずかしいので写真を撮れなかったというものだ。でも、一応「芸術品」ということにしておく。

 4人はその少女像の3軒ほど手前にある、ブリュッセルでもある意味で一番有名なビアホールに立ち寄った。

 地下一階がメインフロアらしいのだが、そこは森ノ宮よりもさらに若い、もしかしたら10代かもしれないような少年少女たちであふれている。店のマスターらしい髭の男が1階の入口の横に広がるスペースへと導く。森之宮たち以外に4、5人の男女ペアが小さめのコップをはさんで談笑している。窓の外に『ここは地獄』という意味のバーの看板が出ているのが妙に印象的で、森之宮が一眼レフとは別に持ってきたコンパクトカメラを持ち出して写真に撮ろうとしていると、もうろれつが回らなくなりつつある常田部長が、さっきのその大学時代の彼女とはその後どうなったのか、と余計なことを聞いてきた。

「そりゃ、ご推察の通り、とうとうその彼女は助手席に座ってはくれませんでしたが、新宿の花街に住んでいましたから、まあ、親元からの通学です。経済的には不自由はなかったので、初めての夏休みの前半に母親に出してもらったお金で運転免許を手に入れて、残りの半分をアルバイトに費やして中古のサニーを買いました。すごく近いんですけれど、通学はもっぱら車。そして車中ではFENと呼ばれていた米軍の極東放送を聞く毎日でした。残念ながら、いや、期待通りかな、隣は空席でした、彼女以外も含めて、ずっと」

 これで上司お二人は安心してくれたのか、目の前のビールジョッキを持ち上げると一気に、ほんの2センチくらい飲んでテーブルに戻した。目がすわってきている。

 しかし、実は本当の夜はこれからだったのだ。
地下一階のフロアから、二人、三人が連れ添ってビールの小瓶と小さなコップを持ってわれわれのいるスペースに上がってくる。結構流暢な英語で、飲んでいいか、と聞く。みな背が高く、金色か銀色の髪の毛で、まつげは長く、唇はヨーロッパの北のほうの人種としては少し厚めで、胸の谷間は殊更のように強調されている。美人と言っていいと思った。しかも、秋というよりは冬の気候にも拘わらず半そでミニスカートだ。

 ここでYesというと、交渉成立なのだろうと森之宮は察したが、常田部長も河野課長もアルコール摂取過多のためにそんな判断はできていないように見える。右と左に座った二人の女性両方にYesと返事をされては相手もどうしていいかわからない。まさかその歳で一晩に二人を相手にできるとは到底思えない。加藤さんが英語によく似た言葉、たぶんフラマン語だろうと森之宮は思ったが、で何か言うと、常田河野のお二人にくっついていた4人の女性は諦めた顔をしてビール瓶だけ置いて降りて行った。

 本当は課長以上の分しか確保していないが、こういうことなら森之宮くんが気に入った子を連れて帰っていいから。と加藤さんが水を向けてくれる。ご自身は家族同伴で赴任して来ているのでさすがにまずいから遠慮するとのこと。

 必ずしもこちらだけが選ぶのではなく、日本語の言い草ではないが、相手にも選ぶ権利があるようで、気に入らない男とは出かけない。ちょうど森之宮くんの隣にいる二人は小柄で、たぶん君なら、と思って上がってきたはずだ、ここから先の費用は欧州事務所で持つから心配なく。加藤さんはこう言うと選択を促すかのように横を向いた。

                         (続く)

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Last updated  2009.01.05 20:43:01
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