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朝吹龍一朗の目・眼・芽

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2009.12.06
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カテゴリ:ばっちっこ
ばっちっこ その12  

 このちょっとした騒動の後、生徒会長に立候補した。それまでは各クラスから推薦を受ける形でどちらかというと秀才の義務のような位置づけだったのだが、俺は馬鹿馬鹿しい校則を廃棄するために目的を持って立った。当然のように当選し、1年間やりたいようにやらせてもらった。校則改正の前に、手はじめの戦果は翌年の入学式のスピーチだった。

「中学校は『人間ロボット製造工場』です。先生や、先輩の言うことをそのまま信じていたら、卒業と同時にロボットです。皆さんはまず、『自分で考える』ことを習慣づけてください」
 とやった。
 直後に生徒会担当の顧問と一緒に校長室に呼ばれた。どういうことか、と問い詰めるので、間違っているところを論理的に指摘せよ、とやり返した。校長ははげ頭のてっぺんまで紅潮させ、すべてが誤りだ、謝罪しろと言った。俺は、そんなのはちっとも論理的でない、論点を明確にして反論しろと詰め寄った。お前は退学だ、と校長が叫んだので、きみにその権限はない、論理的に話ができないなら帰る。そう言い残して俺は校長室を出た。

 頭に来たので、生徒会会則にある、『最終決定権は校長にある』という条項をひっくり返すことを画策した。本来は中学校の生徒会活動が教育の一環、ひとつの手段であるために設けられた条文であることは重々承知の上、これを蹴っ飛ばす活動を通じてバカな教員たちが校長も含めてどうあたふたするかを見たかったこともある。だめもとだが、あわよくば本当にこの最終決定権条項を撤廃して後輩たちにより自由をもたらせればいいと思っていた。
 
ひっくり返すためにはそれなりに手続きが必要だ。『中央委員会』という共産党張りの組織を手なづけて決議を出させ、毎学期末にある定時生徒総会にかけることにした。1学期の終わりの日である。

 議題を事前公開するとどんな妨害が入るかわからないので、中央委員会メンバーには緘口令を敷き、議事次第には『その他』としか書かなかったのだが、1年生の一人が担任に責められて最終決定権条項撤廃のことをしゃべってしまった。大泉弘子という頭も良くてかわいい女の子で、隔週水曜日にある中央委員会で書記に指名し、いつも隣に侍らせていたのだが、それだけに自分が秘密を漏らしてしまったことをとうとう俺に告白できないまま、総会当日を迎えてしまった。

 体育館で全校終業式をしたあと、各クラスで通信簿が配られる。ここまでは毎度のことだ、何も変わったことはない。引き続き簡単なホームルームと夏休みの心得みたいな内容を担任がしゃべり終わると、再び体育館に戻っていよいよ生徒総会が始まる。
 クラスの友人たちと一緒に教室を出て階段を降りると2階に職員室がある。1・2年の体育教師が2人して待ち構えていて俺の両腕を押さえると、校長先生がお話があるそうだ、ちょっと来いという。1階にある校長室には禿頭まで青く染まって緊張している久保田校長が待っていた。きょうはここから出さないからな。説教をしてやる。お前みたいなやつには内申書に本当のことを書いてやるからな。だんだん顔全体に赤味が射してきた。まん丸い顔なのであまり酷薄な感じがしないのだが、このときは冷酷一途な気配を感じた。
 俺はもとからこの会則改正がうまくいくとは思っていなかったから、たぶんこの場にいる誰よりも落ち着いていた。
「本当のことって、教員の弾圧にめげずに真実を貫いたってことですね」
 俺はこの久保田という校長を完璧になめきっていた。久保田校長の顔の赤味が赤を通り越して赤黒くなってきた。生徒会は教育活動だから、生徒会での決定事項は校長が最終的に決めるのは当然だろう。そう言いかけて来たのは生徒会顧問の教員だった。俺は社会科担当のその教員を無視して校長に向って言った。
「これで君の出世は終わりだな。俺はこの足で出るところへ出る」
 教育委員会がお前みたいなやくざもんの言うことに耳を貸すとでも思っているのか。校長はそう言い切ると大声で笑った。わっはっは、という感じだ。釣られてなのか追従(ついしょう)なのかは別にして、体力以外に取り柄のない体育教員が二人でコーラスをするように笑った。
 俺も笑いをこらえきれなくなって下を向いて小さく笑った。
「誰が日教組の教育委員会になんて行くもんか」
 笑いが止まり、生徒会顧問が、じゃあどこへ行くつもりか、と聞いてきた。俺は下を向いて今度は笑いをこらえながら、さっきと同じように小さな声で言った。
「黙秘権」

 体育館では、議題が事前にばれてしまっていることを大泉弘子からも聞き、俺の身に起こったらしい異変も悟った副会長以下が淡々と会則改正以外の議事を進め、俺の帰りを待っていたようだが、ついに現れない俺を待てずに、予算を議決したところで閉会にしたそうである。そのしばらく後、解放されてすぐに総会の会場に飛び込んだのだが、もちろん、そこには生徒は誰もおらず、数学担当の海坊主の出来損ないのような教頭と、がりがりにやせてオールドミスの典型のような国語担当の俺のクラスの担任がへらへら笑いながら何か言葉を交わしていた。
 俺の出現に二人とも腰が引けているのがわかる。どうしたのかね、と、教頭が言わずと知れたことを聞く。声が上ずっている。担任のほうは、高松君が職場放棄している間に総会は終わっちゃったのよ、と俺を挑発した。
 拳を固めて一歩踏み出すと、二人とも二歩下がった。


 この日はさすがにクラブ活動はない。しかし体を動かしたかった俺は『警剣』に行くことにした。道場に顔を出す前に、新宿警察署のプレスルームに寄ってみた。特段の刑事事件があったわけではないが、ちょうど夏休み入りということで、金沢警部がなにやら原稿を手にしてプレストークをしている。いつもの剣道着に面と胴と小手という姿からは想像もつかないくらいやさしい面差しだ。

 終わりかけのころ、俺を見つけた金沢警部が、まあ、このひとくらいまじめな子ばかりなら苦労はないんですけどね。と記者に向って笑いかけた。すぐ近くの区立中学校の生徒会長さんです。こう紹介してくれた。
 安物のワイシャツの袖をめくり、半袖にちょうど隠れるあたりを警部と記者たちに見えるようにしながら俺は記者席の真ん中を突っ切って行った。
「ひどい目に逢いました。これ、教員に掴まれた跡です」
 こう口火を切ってさっきまでの生徒総会での出来事を語った。あえて事実だけを述べることで、記者たちに客観性を感じ取ってもらえるように工夫したつもりだ。
「裏を取るならどうぞ。校長以下、わたしが教育委員会に訴えると思っているようですが、わたしにはコネもありませんので、こうして日本の良心に真実だけをお伝えしました」
 
 どうやら警察回りをしている人たちとは職掌が違うようで、5・6人ほどの新聞記者たちは互いに顔を見合わせた後、警部が俺の腕をさすっているのを見ると、ばたばた出て行った。記者会見場のすぐ外にはこれ以上お誂え向きという場面はないと思われるくらいお誂え向きに、公衆電話が4台並んでいる。手短に話す手際はさすがに手慣れたもので、俺がたらたらとしゃべった中身を1分以内に要約して伝えていた。
 ひとしきり電話が終わると、今度は警部に向って質問が始まる。本件は所轄署としてどう取り上げるつもりか。
 既に俺から大要は聞き取り済みなので、金沢さんの答えはしっかりしている。事実関係を調査の上、しかるべき対応をいたします。さし当り、校長以下関係教職員への聞き取りと、生徒さんへの面談を手配いたします。いや、いたしました、もう係りが『げんじょう』へ向かっております。と警部は淡々と答えた。
 じゃあ、立件もあり得ると? いや、それはまた次元の違う話です。よくよく調査が進んでからの話です。が、オフレコですが、高松君が言うことですから、事実関係は正しいでしょう。ただ、立件は難しいでしょうけれど、ね。

 俺はそこまで聞いてから、剣道場へ行った。


                              ばっちっこ  続く

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Last updated  2009.12.06 16:56:06
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