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(正隆と由宇より) 熱めにおとしたお湯に胸までつかり、湯船の縁に両腕をかけたとき、とても自然にため息がでた。 窓の外では小鳥が鳴いている。朝入る風呂というのは、なんとも不思議だ。 とめどない世の中の時間の流れから、自分ひとりだけ開放されたような、とりのこされたような 気がした。 ぬれた手で顔を摺る。 たしかに、疲れていた。 昨晩は結局事務所に泊まりこみだった。仮眠だけとり、目覚めたところで、「風呂に入って 着替えてこい」と言われた。残念ながら、「帰って休め」とは、ついぞ言われなかった。 肌に心地よいぬくもりが、疲労で磨り減った神経を癒してくれるようだ。 が、もぞもぞと尻の座りが悪いというか、そわそわと心が落ち着かない理由は、別にある。 思考がその先にいきそうになり、正隆は無理やり考えるのをやめた。 考えるのは疲れる。とくに、今のように十分な睡眠と休息がとれていないときには。 できるだけ、考えたくなかった。 しばらく静かな浴室でぼーっと過ごした。 半ばうとうととしていたかもしれない。 はっと飛び起きたのは、大きな音と共に、冷たい外気が室内に流れ込んできた瞬間だった。 「まさたかっ」 そこには、荒い息をつく由宇がいた。 正隆は驚きすぎて、言葉にならない。 それをどう受け取ったのか、由宇は元々不安げだった顔をくしゃりと歪めて、湯船につかる 正隆にがばっと抱きついた。 「お、おい、濡れる、」 正隆の首に両腕を回し、すぐ近くから見上げてくる由宇は、両の目からぼとぼとと涙をこぼしていた。 「どうしたんだ」 「どう、したんじゃ、ないよっ か、けてもかけても、正隆の携帯がつながらないから、」 「ここまで来たのか?」 「もう、終わりなんだと、」 いいすがる由宇には、先ほどまでの剣幕は欠片も見当たらなかった。 ブチっと、音がしそうな勢いで電話をきったのは、由宇の方だった。 きっかけはささいなことだ。 事務所に泊まるのに、研修中の若い女性も一緒だったとぽろりとこぼしたら、由宇が勝手に切れたのだ。 そんな子ではない、やましい間柄にはなりようがないと、二人の関係性を否定すればするほど 由宇の怒りは増した。 正直正隆は疲れていたし、そんなどうでもいいことを説明したくなかった。 それが由宇にはどう受け取れたのだろうか。一方的にわめき、電話を切ったのだ。 つながらないはずだ。 正隆の携帯は、今、ダイニングの机の上にあるのだから。 はらはらと泣く由宇は、本気で別れを思ったのだろう。 正隆にはそれが分からない。あんなの、ただ不機嫌の延長ではないのか。けんかですらない。 今さら、あれしきのことでこの関係が終わるなどと、由宇は本気で思ったのだろうか。 そう冷静に思う反面、濡れた目で見つめてくる由宇に、心の中の冷たくかたい部分が じわりと解けゆくのを感じた。 「濡れるから」 抱きついてくるのを引き剥がし、とりあえず風呂から出ようとする。 が、出る間も、つづきの間で体をふく間も、由宇は正隆から離れなかった。 べったりと抱きつき、まとわりついてくる。 正隆は、そんな由宇の髪にそっと唇を押し当てた。 やわらかく、あたたかい感触。 それだけで、よかった。 朝食は二人で食べた。 *:・゜*:・゜*:・゜*:・゜*:・゜*:・゜*: 仲良くしてください。 mikaさん、すみません早朝の風呂(しかも温泉じゃない)しか使えませんでした(;・∀・) それから、携帯サイトの文字化け報告くださった方・・・調査中です(;・∀・) 移動中にもって、もうほんとうにありがとうございます(涙) もうほんと仕事が・・・ って書こうと思ったけどやめた。 焦ったら、文字を書く。 疲れたときも、文字を書く。 それだけだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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旭陽くんは万年情緒不安定だよね。
そんなに素直に顔に感情が出ることが、いっそ羨ましいよ。 いつまでもそんな子でいておくれ・・・たら可哀想だからいつかきっと大人になるときがくるよ、と記す。 さらに、旭陽くんが恋愛モードにハマったら、きっと由宇みたいな子になるんだろうなーと予測す。 その時の、恋人の言葉は単調だと面白いな。 「またか」 「なんだ」 「どうした」 みたいなの(笑 (March 4, 2011 12:21:30 PM)
『自覚するところから始めよう。』
いや前言った気しますが、わたしは自分の感情が顔に出てる自覚がまったくなかった。 笑顔で取り繕えてると思っていた。大人なわたし。 きっと職場でも出てるんでしょう・・・ いいよいいよ、なんでもいいよ。好きに思うがいいさ。 と投げ遣りな最近(笑) きっとそう、テンション高いときは由宇で、ドツボにはまったら雅巳! そして、↑の言葉にちょっときゅん・・・となったと白状す。 (March 5, 2011 11:27:48 AM) |