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2005/04/23
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カテゴリ:株式投資
株式投資をする際、その企業が割安かどうかを、
PERやPBRといった指標で判断しようとしますが、
たまにはちょっと違った視点で考えてみること、
目に見えないものにも注意を払うことも必要です。

よく経営者は「企業価値の向上」といったことを口にします。
ライブドアのニッポン放送買収騒動の時にも、
「企業価値」といったことが議論されました。

企業価値が上昇すれば、株価も上昇するだろうと考えられますが、
それでは、この「企業価値」とはいったい何で、
どのような考え方で計測するのでしょうか。

理論的な企業価値とは、
「その企業が生み出すであろう将来キャッシュフローの割引現在価値の総和」
のことです。
これは、企業価値だけでなく、不動産でも、債券でも、同じです。
企業価値はどのように評価されるか?
つまり、予測される将来の現金収支を、
その企業の「資本コスト」で現在価値に割り引いた総和ということです。

資本コストとは、借入や株式による資金の調達コストのことです。
しかしこの資本コストというものが、非常に重要であり、
そして難しい問題になります。

基本的な考え方として。
例えば、高利貸しから年率30%の利息で100万円を借り、
その資金で、株式投資をしたとします。
これを、資本コスト:30%と表現します。
一年経過し、株式投資で年率20%の収益を得たとします。
これを、投下資本利益率:20%と表現します。
1年後に、借り入れした資金が、120万円になったということです。
しかし高利貸しに金利:30万を支払わなくてはいけませんから、
株式投資(=運用側)で、20%の利回り(=投下資本利益率)が得られても、
その資金の調達側では、30%の金利(=資本コスト)を支払う必要があり、
結果として、「価値創造はマイナス10%=マイナス10万円」
ということになります。
つまり「投下資本利益率」>「資本コスト」でなければ、
経済価値の創造は、絶対に行われないということです。
もし、「投下資本利益率」<「資本コスト」であった場合は、
経済価値の破壊になってしまいます。
この考え方は誰でもわかると思います。

企業が資金を調達する手段は、
銀行からの融資や社債発行などによる「借金」=「有利子負債」と、
株式発行による「増資」=「株主資本」の2つがあります。

ここで重要なのは、有利子負債と株主資本では、
それぞれ「資本コスト」に違いがあるということです。

一般的には、「株主資本コスト」>「有利子負債コスト」です。
なぜなら、融資をする場合、その利息や返済条件が契約書に明記されますが、
株式投資をする場合、その投資家に対する利益は、明示されていないからです。
よって、株主(=企業に資金を「投資」している者)の方が、
債権者(=企業に資金を「融資」している者)よりリスクが高い、
ということです。
リスクが高いのに、収益が低いのでは、誰も投資したがりませんから、
株主資本コスト=(資金の出し手から見た)期待収益率も当然高くなります。
(融資であれ、投資であれ、投資活動とは常に、
 リスク以上のリターンが期待できる場合にしか合理的でありません)

これをまとめると、
「投資家のリスク認識」=「投資家の期待収益率」=「企業の資本コスト」
ということになります。
資本コストとは、企業が達成すべき投資利回りの最低基準ということです。

従って、企業の資本コストは、
「株主資本コスト」と「有利子負債コスト」のそれぞれの額の比率によって、
加重平均を取った結果になるというわけで、これを、
「WACC:Weight Average Cost of Capital=加重平均資本コスト」
と表現します。
そして、運用側の投下資本利益率を、
「ROIC:Return on Invested Capital=投下資本利益率=運用側利回り」
と表現します。

つまり、企業の価値創造は、
「ROIC > WACC」
である場合に限り、創造される、と言えます。


ところで有利子負債のコストは、簡単にわかります。
企業会計の場合、経常利益の段階で「支払利息」が計上されるので、
会計上の数字として、明確に記載されます。
しかし、株主資本コストについては、
企業会計上、「配当」部分だけしか表現されません。

しかし投資家は、「配当」だけを目的に、
株式投資をしているわけではありません。
多くの場合、配当より、
「株価上昇益=キャピタルゲイン」を見込んで投資するわけです。

つまり、株主資本コストとは、
対象企業に投資する投資家の、対象企業に対する「リスク認識」=「期待収益率」
によって決まると言えます。
投資家が、対象企業への投資において、
「短期間で大きな株式値上がり益」を狙うと言うことは、
企業側にとって「株主資本コストの上昇」に直結するということです。

よって企業価値は、株主のリスク認識によって左右され、
投資家のリスク認識は、対象企業の「経営者に対する信頼」によって、
左右されるということです。

例えば、
「1部上場の電力会社は配当狙いなので、
 キャピタルゲインはそれ程期待していないが、
 マザーズのような新興企業に対する投資の場合は、
 リスクも高いから年率20%のリターンが見込めなければ、
 投資したくない!」
などです。

そして危うい経営者の経営する企業には、投機家が集まってしまいます。
(高利貸し業者がなぜ信用力の小さい人に高金利でお金を貸すのかを
 考えればわかると思います)
結果、資本コストは上昇し、企業価値の破壊につながります。
それでも、価値創造を行うためには、
非常に高い資本コストを上回る、超高い投下資本利益率が必要となります。
ROIC>WACCを満たす必要があるわけです。

それでは、会計上に現れない「株主資本コスト」は、
それを「投下資本利益率」が上回らない、つまり価値破壊の場合、
どのような形で現れるのでしょうか。
それは、
「株主価値の下落」→「時価総額の下落」→「株価の下落」
となって現れます。
なぜなら、投資家がその企業へのリスク認識を高めた場合、
「もう少し株価が下がらなければ、買いたくない」と思うからです。

「減益になるわけでもないのに、なぜ企業に影響を与えるのか」
と思う投資家は多いと思います。
目に見えるものしか見ようとしない人達です。
株主価値(=時価総額)の下落は、企業にとっての損失です。

短期の話ではなく長期的には、時価企業価値は理論企業価値に近づきます。

上記の内容により、企業価値評価理論では、
企業価値=「当該企業が生み出すであろう、
将来フリーキャッシュフロー(=純現金収支)を、
当該企業の「加重平均資本コスト」によって、
現在価値に割り引いた結果の総和」
と言うことになります。

企業価値をもとにした簡単な長期投資の戦略として、
投資家としてのリスクに対する期待収益率がある程度決まっている場合、
その期待収益率をもって株式の機会費用として資本コストを算出し、
企業の将来キャッシュフローの割引率とすれば、
その結果として算出された企業価値から有利子負債などを引いて
株主価値を割り出し、得られた数値と株式時価総額を比較し、
時価総額の方が小さければ、割安と判断し投資する、
ってのもありだと思います。
企業価値から理論株価算出
ここにPERやPBRは関係ありません。

また例えば、買収や合併は、そのシナジー効果がよく語られますが、
結果としての、「運用側=投下資本利益率」が、
「資本コスト」を超えるかどうか、または将来、越えられるのかどうか?
を考えなければ、判断できません。
企業価値を語る上で、「資本コスト」は最も重要なファクターです。


ご参考:早わかり「フェアバリュー」講座
第2回「企業価値評価の概要」
第3回「将来キャッシュフローの予測」
第4回「資本コスト~計算方法」
第5回「資本コスト~実務上の留意点」

(続きは次回)


ところで、為替王さんのところで、
中国は投資対象ではない
という内容が紹介されていました。
カルパースは、中国やロシアを投資対象としないそうです。







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最終更新日  2005/04/24 03:52:14 PM
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