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カテゴリ:本
巌谷國士の随想と宇野亜紀良の装画とは個人的には最高のカップリングの一冊。
「日常が幻想を超える」 という帯の文にたがわぬエッセイが集まっている。 幻想文学の知識の羅列や、故事や薀蓄の寄せ集めではなく 現実界で作者が接して愛でた植物への嗜好が語られているゆえか、気取りがない、だけどかっこいい文章。 美辞麗句を連ねるのでなしに、植物の不思議な魅力を説き明かしていて、花や樹の生彩に満ちたイメージがとりどり浮かんできて楽しい。 とくにアネモネを語った章が私はお気に入り。 『少しちぢれた花びらの真紅。睫毛の濃い眼で此方を見つめているような花芯の黒。自分より少し年上の美少女を感じた』 美少女の謂としているけど、私はすぐさま美しすぎる男子の瞳を連想した。 だってアネモネの由来アドニスは少年の植物神なんだから。 そして作者が雪の降るイスタンブールをそぞろ歩いていて、ふと思い立って、通りすがりの花屋でブーケを作ってもらうエピソード。 『オリエントの花々はどれもあでやかで優美に見えたが とくに目を引かれたのは大輪のアネモネである。 真紅と濃い紫のアネモネを選んでブーケにしてもらうことにした。 イスラム世界の装飾のセンスはすばらしい。 まず黒い紙でさっとくるんだかと思うと、銀紙の縁をジグザクに切って黒紙の上からスカートのようにまとわせ、腰には薄紫色のリボンを巻いた。 見たこともない可憐で妖艶でエキゾティックな花束ができあがり、凍った雪の歩道に映えた。』 こんなお洒落な花束なら私も欲しいな。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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