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紗羅さま・・・!
あの金色の子猫が、遠くあの寺の境内から、見えない加勢の手をミケに差し伸べてくれている。 邪心のない、あの澄んだ瞳で、一心不乱に悪霊退散を祈願し、正しい道をミケに指し示してくれている。
それに気がついたら、ミケの内に、萎えかけていた気力がたちまち蘇ってきた。 再び人間を信じる心が、奇跡のように湧き起こってきた。 これまで自分を可愛がってくれた人間たちに対する、深い感謝と、篤い信頼と、そして、ゆるぎない愛情が、熱い力となって、体の奥からこみ上げてきた。
その熱い思いが金縛りの鎖を溶かし、一瞬のうちにすべての迷いを断ち切る。
金縛りから抜け出して自由になると、ミケは渾身の思いをこめ、暗闇の怨霊どもに向かって叫んだ。
「お前たち、いつまでもそこにとどまっていちゃいけない、早く目をお覚まし! よく思い出してごらん。 人間たちがお前たちにしたことは、悪いことばかりだったか? そうじゃないだろう? 優しくしてくれた人たちだって、たくさんいたはずだよ。 たとえ、お煮干一尾だって、頭の一撫でだって、お水の一しずくだって、いや、哀れと思って投げかける視線だけだって、そこには、あたたかい人の心がこもっていたんじゃなかったか? それは、人間だけが持つことのできる、慈悲の心というものではないのか? そのことを忘れて、そんなふうに人の暗い面ばかり見ていたら、不幸になるのは自分だけだよ。 あたしたち猫は、野生動物とは少し違う。 飼い猫ばかりじゃなく野良猫だって、みんな、人間の社会で、人間と一緒に暮らしているんだ。 だからこそ、あたしたちも、良くも悪くも人間たちの影響を受けずには生きていけないんだよ。 お前たちも、そのことを早くに学んで、人間社会の猫として、人とともに、賢く生き延びなければいけなかったんだ。 みんな、もう、過ぎたことは忘れて、今度生まれてくるときは、優しい人にめぐり合って、その人を信じ、愛しぬいて、一生をともに、幸せを分かち合ってお暮らし。 ひたむきに愛すれば、人はきっと応えてくれる、そういう生き物なんだよ。 頼むから、このミケの言うことを信じておくれ!」
ミケの発する言霊の一つ一つが、白く輝く熱い光となって、暗闇に迷うビームに向かって飛んでいく。
それを援護するように、紗羅の清らかな金色の炎がそっと寄り添う。
二つ重なって輝きを増した白光が、次々とビームを叩き落とし、怨霊の本体に迫る。
今やおぞましい暗光を失って気味の悪いゼリーのように変わった本体が、一瞬、狼狽したように揺らめき、と思った次の瞬間、金色の炎を上げながら激突した白光が、それをこっぱみじんに打ち砕いた。
砕け散って、宙に舞った青緑のかけらが、ひとつずつ、ふっ、ふっ、と闇の中に消えていく。
陰りのない清らかな光が、部屋の中をいっぱいに満たした。
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