116189 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2010年09月21日
XML
カテゴリ:フィクション

 晴彦の話

 

 

 彼女とのけんかの理由は、また子どものことだった。

「わたし、そろそろ子どもが欲しいの......」

 

 その言葉の裏には、ぼくらの関係を変えるにはそれしかない、という本音が見え隠れしていた。まるでトランプのババのようなその言葉。

 しかし、ぼくには前に進む勇気がなかった。

 

 散々ののしりあい、彼女は出て行った。

 つくりかけの夕食を手がける気にもなれず、袋入りのお茶漬けをご飯にかけ、すますことにした。

 

「あっ、東海道五十三次だ」

 袋を取り出すと、小さなカードが足元に落ちた。

 広重が描く躍動的な富士が見えた。

 

 小さい頃、母親が集めていたことを思い出した。

 そういえばあのとき、お茶をカードにかけ、ひどく叱られた。

 あと二枚でアルバムがもらえる、などとぶつぶつ言いながらふいに漏らした言葉があった。

「まったくねぇ。子どもはコレだからイヤだ。あんたなんか生まなきゃよかったよ」

 

 

(あんたなんて……) 

 あっ。

 

 

 ぼくの手から東海道五十三次が落ちた。

 自分がなぜ、子どもというものにこだわっていたのか思い出した。

 

 同じことを繰り返そうとしていたのか......。

 同じ「親子ゲーム」を。

 

 たたきに飛び出し、靴を履く。

 そして、彼女の行きそうな場所に頭をめぐらせる。

 

 まだ間に合う!

 いや、間に合わせる。

 (つづく)






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2010年09月21日 05時38分57秒
コメント(0) | コメントを書く
[フィクション] カテゴリの最新記事



© Rakuten Group, Inc.