カテゴリ:フィクション
かずさの話
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わたしが、あれから夏休みまでの二ヶ月間走り続けられたのは、父親が止めても一人で走ってこられたのは佐久間 真哉君との出会いが大きかった。 母親に言われた翌日、わたしは二日ほど一人で走った。 父親が走り始めるとは正直思えず、こうして走ることに何の意味も見つけることができなかった。 今日でやめよう、と決めていた三日目のことだった。 わたしがとぼとぼ走っていると、 どこのおっさんだろう、とふりかえると、マンガの主人公を連想させるほりの深い、整った顔の中学校三年生くらいの男の人が走ってきた。 Tシャツに、ジョギングパンツという格好。顔以上に目を引くのが金に近い色合いの茶髪だった。顔に見覚えはなかった。同じ中学校ではなさそうだ。 だが、ジョギングパンツからのびる太ももの筋肉が、足の動きに合わせて動いているのに目がいくと、なかなかそらせなくなってしまった。 わたしの中の挑戦的な何かが、とたんにうごめき、彼に並びかけた。 彼は、一瞬、はっ、とした顔をしたが、なっとくしたように走るとペースを上げた。
だが、その人に対しては、同性の友達と走るような不思議な感覚をもった。 そのまま抵抗なく並んでしまった。 無駄のないフォーム、軽やかなステップ。 相当走りこんでいる人だ。 久々のランニングにわたしの体力が下降線をたどると、彼はわたしに合わせてペースをおとした。 やがて足がもつれるように歩き出すと、となりを進む彼のひたいにかかった前髪のゆれが小さくなったのに気づいた。そして、わたしを見て、なつかしい人を見るように目を細めた。
「あ、あのさ」 「じゃあ」 きっと、すごい選手なのだろう、と思った。 その人が、視界から消えかかったとき、わたしの中にふいにある感想のようなものがわきあがった。 それは、男の人の走りが、何かから逃げているように見えたのだ。 (つづく) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010年10月14日 05時36分52秒
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