いざこざの外

横に警察官は付いたままでしたが、旦那がこちらに横顔を見せる様にして
本当に手を伸ばせば届く程の、すぐ目の前の椅子に座りました。
裁判が始まるのに、何かの不手際があったのでしょう。弁護士が慌ただしく
書類を出したり提出したりの時間があって、裁判はなかなか始まりません。
その騒がしい時間に、旦那がこちらを向きました。
どんな形でも嬉しい再会だったので、思わず笑いがこぼれます。
向こうもつられた様に、少し笑いました。
直接話す事も出来ませんが、やはり少しでも長く見ていたいのです。
弁護士の不手際も、もっと出てくればいいのにと不謹慎な事を考えました。

勾留理由開示は、まず被疑者３人の氏名・住所・職業を言う事から始まり
次に裁判官が勾留理由の説明になります。ところが裁判官の説明は、全く
聞こえません。用意された書類をボソボソと俯きながら読み上げるので
ところどころ単語が聞き取れる程度で、言っている事を理解する事が
出来ないのです。弁護士から先に提出されていた質問状の様な書類が
あった様ですが、それについても「回答のみを言えばいいか？」と、
時間の短縮だけを最優先しているかの様な印象でした。
回答のみでは、傍聴している私達は質問の内容を知らないので、ますます
話しが分りません。弁護士も質問内容も読み上げる様にお願いしたところ
渋々と言った感で書面を読み始めますが、結局、何を言っているのかが
聞こえないのです。ただ回答は全て、同じです。
「捜査状況を明かす事になる為に、答える事は出来ない」
一通り書面を読み終わえると、裁判長と弁護士の質疑応答が始まりますが
全て、同じ言葉で済まされてしまいます。
「捜査の都合上、答える事は出来ない。又、釈明の必要も無い」
国会答弁であった「記憶にございません」と良く似た光景でした。
裁判長から全く取りつく島も無い回答をされる度に、傍聴席から批難めいた
ざわめきが起こります。確かに勾留理由開示をする事で、勾留が解けるとは
思っていませんでしたが、ここまでやる気の無いイベントなのかと、本当に
驚きます。そして裁判所は警察の判断に対して、半ば自動的に認可をすると
言っても過言ではないかもしれません。１度逮捕されてしまったら、逮捕の
不当性を訴える場所も機会も、全く無きに等しいと思います。

その後、被疑者と弁護人の意見陳述が行なわれます。
持ち時間は１０分程度と聞きましたが、弁が立つ訳では無い旦那が１０分も
一体何を話すのだろうかと、心配になります。最初に証言台に立ったのは
社長でした。さすがに堂々とした話振りです。次に編集長が立ちます。
予め用意していた原稿を手に、実に論理的な意見陳述が展開されました。
最後が旦那です。旦那が立ち上がって、裁判長の前に立ちました。
話す事を考えず、行き当たりばったりで臨んでいるに違いありません。
ああ、どうか無事に日本語として成り立った事を話します様に。
私は旦那の後ろ姿に、ひたすら祈っていました。