いざこざの外

翌日、３時前に検察庁へ着きました。
入り口にいる警備員に声を掛けられ、用件を言うと丁寧に案内をされます。
建物の中に入り、ロビーへ行くと社長夫人や松文館の社員さん達
そして弁護士さんもいらっしゃいました。簡単に挨拶をすると弁護士が
旦那達が出て来る窓口の方へ、身内である私と恐らく編集長の親御さんを
案内して移動することになりました。

エレベーターに乗って少しした時、弁護士が急に口を開きます。
「それにしても、ご主人はお父様に良く似ていらっしゃいますね。
言われる前に、すぐ分りましたよ」
少し可笑しそうな口調で、軽く言われたので何を言われたのかが
とっさに分りませんでした。
「どういう事ですか？旦那の両親が来ているんですか？」
「ええ、身内の方が、もういらっしゃってますよ」
血の気が引きました。本当に、顔が痺れる様に血の気が引きます。
このまま会えば、私は絶対に相手を責め立ててしまうに決まっていますし
向こうは向こうで、私に対して言いたい事を溜め込んでいるはずです。
エレベーターをすぐに止めてもらって降りると、そのまま踵を返しました。
１階へ戻り「帰ります」と言ったら社長夫人も驚いたご様子でしたが
一番ご主人が会いたいのは奥様なんだから、ここで待っている様にと
なだめて下さいます。

夫人の声を聞きながらも、私は悔しくて腹が立って、震えが止まりません。
面倒はこちら任せ、抗議文だの事情説明だのを強く言っておいて
迎えにだけはちゃっかり来るなんて、図々しいにも程がある。
汚い人達だと怒りが収まりません。何よりも旦那の身内と揉めている事を
知っていながら、こちらに何も聞かずに釈放の時間帯を教えてしまった
弁護士にがっかりしました。
少しは気を使う事を考えないのか、バカめ。
私はロビーで、泣きに泣きました。

社長夫人が本当に親身になって宥めて下さいました。
私は他の人達と一緒に、ロビーでぼんやり待ち続けます。
４時を過ぎても、旦那達は姿を表しません。
他の人達は、出て来た身内を迎えて次々と帰って行きます。
「少し、遅いですね。どうしたんでしょう、何かあったのかしら」
皆が、時間を気にし始めます。やっぱり戻って来れないのではないか。
口にはしませんが、そんな不安も生じて来ました。

実はこの時、社長が土壇場で「わいせつとは認めない」と態度を翻したので
慌てた担当検事が、皆の釈放を取り消そうとしていたらしいのです。
検事が到着した時には既に手続きが済んでいたのですが、裁判所の方が
検察の上が更に動くのか、つまり再逮捕等の手続きを取るのかどうかを
待っていたので、編集長と旦那は中々出してもらえなかったのです。
本当に滑り込みセーフで手続きが完了していたという事になります。

そして５時少し前。
本当に最後の最後になって、旦那達が降りて来ました。