いざこざの外

第２回公判で検察側証人として、まず出版倫理懇話会会長であり
成人向け出版社トライアングルフォース社長である
長嶋博文氏が出廷されました。
出版倫理懇話会は成人向けグラビア誌やコミック誌、ビデオ関係を刊行する
出版社３５社で構成される任意団体で、毎月の会合で都の有害図書指定を
受けたものを回覧して対応策を話しあったり、別にある任意団体との情報
交換をするなどをしているそうです。又コミック発行に関して、会の出版
倫理綱領、編集倫理規定があるとのことです。そもそも昭和６１年の発足
当時は親睦会的なものだったそうですが、前任者によると当時の警視庁の
方から、出版社の団体を作ってもらえないかということから始まったそうで
現在も警視庁との窓口もあるそうです。その関係で摘発時に「密室」が
わいせつ物にあたるか警視庁から事情聴取も受けていらして、検察側証人と
しての要請だったと思われます。事供述書に、松文館は倫理懇話会に参加
しないアウトローと話したとされている、本には書かれていましたが
実際の言葉が文字通りのものであるか、又は警察側の意訳であるかは
私には分りません。

この方の証言で印象に残ったことが、いくつかありました。その前に
検察側が編集倫理規定の中から取り上げた項目が２つありましたので先に
それを挙げておきます。
「性器およびそれに類する部位に関しては、露骨な表現はこれを排し、又
それらの部位は消去する」
「青少年の健全な保護、育成のため、性的感情を刺激し、又残虐性を助長
すると思われる記事・写真・マンガ等は、取扱いに十分注意する」

警察は「性器に類するもの」が何か「露骨な表現」とはどういうものか。
それを何度か聞いていましたが、具体的な回答が出て来ません。
長嶋氏が答えたものは「こういう事だと思うけれど、それぞれ受け方が
違うから」「具体的には、ちょっと分らないけれども」そういう言葉が必ず
入りました。と言うのも、刑法１７５条があるので、それに即した規定を
作ってはいるけれど、時代と共にわいせつ観が変化して来ているので、倫理
規定は具体的な事に踏み込んでいない訳です。後は各社が動向を見ながらの
良識ある判断をと言う感じでしょうか。実際、性器部分のアミかけという
消しの修正は年々薄くなる傾向にあって、中には無修正で出版されている
コミック誌も数多くあるのです。ヘアヌード解禁、インターネットの普及で
わいせつの基準は明らかに低くなり、開放的になっていることから考えても
具体的な線引きは難しいと思います。まして実写に遠く及ばない漫画での
描写に対して、修正の濃さを言うならまだしも、内容や絵の質を取り上げて
「わいせつ」の線引きは、不可能ではないでしょうか。

又、検察が青少年の健全な保護・育成を上げて「密室」が問題にならないか
とも尋ねていました。
「この本をいやらしい内容と思いませんか？」
「人前で証人が読めるような内容ですか？」
「青少年に見せられる内容ですか？」
「成年マークはついているけど、その後で青少年の目に触れる可能性はないですか？」
そんな感じです。これを聞いて、私は「わいせつ図画頒布罪」という罪が
どういうものか改めて分らなくなって来ました。成年マークを付けて
青少年に向けて作っていない本を、青少年が見たらどう責任を取るのかと
言うことなのか。いやらしい内容というだけで全ての表現は規制されるべき
ということなのか。検察の主張が理解出来ませんでした。これらの質問に
対して氏は、年中この手の出版物を扱っている自分はいやらしい感じは
受けないし、成人に向けて売場を区別陳列してパックして売っているものに
関して、青少年が見るかどうかまで見ていられないと答えていました。
又、コミックの性器は写真や映像の違って「性器に似せて描いたもの」で
あるから前後の描写から性器とは言えるけれど、それを「性器」と断定
出来るかどうか、そして同じとらえ方をしていいのか分らないとも
おっしゃっていました。

淡々とした口調で検察側の質問に応じる姿は、業界判断とお役所判断との
違いが余計に鮮明になった様で、とても印象的でした。